公認心理師カリキュラム等検討会議事録を読む。

先日9月9日に,第1回公認心理師試験が行われました。
なお,北海道地区の当該試験は9月6日発生の北海道胆振東部地震により,延期(追試)になりました。
個人的には少しでも早く追試日程が決まり,北海道地区の方々が安心して受験ができるようになっていただきたいと願っております。

まあとりあえず,北海道以外での試験は終わりましたが,その後,色々気になることがあったので,公認心理師養成カリキュラムとか試験とかの決定過程について垣間見られるだろう,公開されている議事録を読んでみました。
以下,自分的に興味深かったところを抜粋します。これを読んで何がどうということはないと思いますが,ご笑覧ください。
lionus的ポイントとか感想:

  • 北村座長が精神科医でなかったのは意外でもあり,またなるほどと思う面もあり。
  • 北村座長のファンになりそう(以下発言抜粋,およびlionusコメント参照)→要するに,常識人でかつ円満なご人格なのだと勝手に思っております。
  • 臨床心理士持ち=受験資格とならなかったのは不満があるが,議事録を通読すると臨床心理士認定大学院ならDルートでいけるでしょ,そうでないならGルートでいけるでしょという合意があったのだろうなと納得する面はある。所詮民間資格だしな。
  • では臨床心理士養成側の意見は無視されたのかというと,案外そうでもなかったのではと思う面もある。公認心理師=大学+大学院が基本正統ルートとして設計されたのは,まさにその証。

以下,議事録から抜き書き以外の箇所=lionusコメントは,青字で区別します。ただし,青字であっても「」内のものは,議事録からの抜粋です。
また,議事録抜き書きで面白いな~と思った箇所は太字で記します。

第1回公認心理師カリキュラム等検討会(2016年9月20日
参考資料4心理職としての現状の勤務者数
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000137284.pdf
心理職としての現状の勤務者数を,「保健医療」「福祉」「教育」「司法・法務・警察」「産業・労働」そして「その他」として「私設心理相談室」も含めて58,167~64,847と推定,ただし非常勤で複数の領域で勤務している場合もありとして,「実際の全領域の心理職者数は38,000~40,000名と推計」している。

北村座長「覚えて解く国家試験ではなくて、考えて答えを導く国家試験が出来たらいいなと思います」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000142097.html


第2回公認心理師カリキュラム等検討会(2016年10月4日)
参考資料4大野構成員提出資料
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000138799.pdf
「なお、学内の外来有料相談施設においてインテンシブなスーパービジョンを受けて事例を担当することを通してその基本姿勢を学ぶ個人心理療法実習とスコアリングが複雑な投映法人格検査については、臨床心理士の役割として位置付ける。」
→議事録(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000142112.html)では,この点につき,大野構成員が検討会で発言したところ,川畑構成員から「スーパービジョンの下での継続的な相談面接の教育というのは非常に大事なものだと思っております。それが公認心理師の中に生かされないというのは非常に残念であると。先ほどからOutcome-basedで考えたときに、しっかり相談ができる、コミュニケーションが取れるというところの研修をしっかり積んでもらうためには、今の臨床心理士の大学院でやっている教育はミニマムだと思っています。それすらさせないという形でのカリキュラムの編成については、このあるべき姿という点から考えると、少し問題があるのではないか」と反応。
「①臨床心理士有資格者の公認心理師受験資格の読み替えについて」として,「臨床心理士資格を公認心理師受験資格に読み替える方向で検討することが重要である」として,受験資格読み替えの要望は示している。

第1回公認心理師カリキュラム等検討会ワーキングチーム(2016年11月4日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000147439.pdf
禁忌肢について
中嶋構成員「試験についての私見ですが、安全・安心という観点から言うと、医師国家試験で言うところの重大問題のような、これは選んではいけないという選択肢は、私はあるべきだと個人的に考えています」
補足して北村座長「医師国家試験で何題とは言えないのですが、数題です」「5択のうちに1つぐらいがとんでもない危ないのが入っていて、それを地雷問題とか言っています。それ以外で間違うのはいいのですが、地雷で間違うと、それは殺人だろうみたいな選択肢なのですが、それが何個か地雷を踏むと、ほかが満点でも落ちるという制度があります」
北村先生の物言いはいちいち面白い。結構これで会議の空気がなごんだとかありそうな気がしている。

宮脇構成員「現場でずっと仕事をしていますと、学んできて優秀な方が現場に来てくれるのはいいのですが、困ったときに応用が利きにくくて、心理学の基礎をきちんと学んでいると、もう少し応用も利くようになるのではないか。そのためには学部教育のコアカリキュラムというか、その辺が非常に重要になってくるのではないか」

経過措置で沢山公認心理師になったら,飽和しないかの懸念
吉川構成員「大学院の臨床心理士の養成指定校だけで年間3,000人近い修了生がいるのですが、その10倍を下らないとすると、3万人の人たちが今回の経過措置に全員とは思いませんが、かなりの割合で何らかの申請をしてこられる対応の大変さもありますので、経過措置がどういうものであるのか考えるときに、非常に重要な問題になろうかと思います。」「経過措置で大変多くの公認心理師が生まれてくる可能性もあるわけです。そうすると、今後の養成をしても就業できないという現状になったときに、今まで充実させてきた心理専門職の専門教育の大学における研究科や専攻が存亡の危機になりかねません。これから心理学科や大学院を出て資格を取っても職がないということになると学生が集まらなくなることに大学当局は敏感に反応されることでしょう。これは最悪の事態になります」

第2回公認心理師カリキュラム等検討会ワーキングチーム(2016年11月16日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000147435.pdf

国家資格推進連絡協議会、医療心理師の連絡協議会、心理学諸学会連合,3団体連名で出した参考資料(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000143159.pdf)について議事録発言
奥村構成員「学院終了を基礎資格とする、臨床心理士、学校心理士、臨床発達心理士、特別支援教育士について、以下のように要望します」「①臨床心理士有資格者は勤務期間や勤務年数にかかわらず全員が受験できること。②学校心理士、臨床発達心理士、又は特別支援教育士の有資格者は、心理支援業務の経験がある場合、勤務期間や勤務年数にかかわらず全員が受験できること」
奥村構成員「先ほどの私設心理相談機関のことですが」「本臨床心理士会の会員及び、先ほどの推進連に所属している団体にお願いをして、調査をしました。約500名の回答がありまして」「この500人という回答の数字は、現私設心理相談を開設している者の約半分に当たる数であろうと推測しています」

特に引用しないが,学卒+実務経験のコースについて,実務経験は2年か5年かという議論が盛り上がっていたのが興味深い。
2年で十分派:今までの経験から学卒でいきなり現場にきてそれなりに仕事ができはじめるのは2年くらいだったので;5年間も事務職など何かの理由をつけて雇い続けるのは難しい;結婚出産がある女性も,男性も5年間低賃金中途半端な形で雇用するのはいかがなものか;経済的に苦しい人のために大学院出なくても学部+2年コースで受けられる道を残しておいてほしい(安上がりコースではないかと思われる危惧に対して)
5年は必要派:今回出てきたヒアリング意見の主調

試験について複数構成員から「心理学物知り博士みたいなものを測」る試験はやめてほしいというコメントが出てきたのが面白い。

国試の合格率について
北村座長「大学が真剣に、この人は心理士になっていいという人を大学院から出すのであれば、2年間、私たちが見て、合格率90%でいい」「「いやいや、そうでもないぞ」というのだったら60%ぐらいで、「駄目な子は国家試験で落としてください」みたいな。極端に言えば、どちらを選ぶかになると思います」「ただ、大学院を出て、心理士にならなかった人は生きていけるのですか」
→中嶋構成員代理岡本氏「いてもいいですが、心理士としては雇用できません」「ほかの産業や司法などでいけば、必ずしもこの資格はなくてもやれるのではないですか。キャリアは、司法、行政はガッチリ積めるように出来ていますし」
北村座長「だから、そこが難しいです。医師の場合は、医学部を出て、国家試験に通らないと本当に何でもないので、使いものがないので、ある程度の高さがないといけないのです。」

第3回公認心理師カリキュラム等検討会ワーキングチーム(2016年12月9日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000148760.pdf
実験や実習の扱いについて,北村座長にとっての心理学実験=ネズミ?な模様
北村座長「実験させなければいけないとか、グループワークでやらなければいけないとか、いやいや実習で本当のクライアントにお話を聞いて、そこで課題を発見しなければいけないのだと。ネズミの実験では駄目だという学校もあれば、いろいろな所があります。」
北村座長「これ全体は臨床心理学で、ネズミの教育というのはないだろうし、ネズミの福祉もないから、あえていいと思います。変えるなら全部、心理学を臨床心理と変えたほうがいいとは思うのですが。」
→丹野先生から,「心理学のほうが広い概念で、中に臨床心理学が含まれる形ですから」という発言も

個人的にそうそうそうそうと同意した発言
奥村構成員「今の御議論で少しほっとしてきたのですが、臨床心理学の外延がよく分からないということは、別の所からもお伺いしたのですが、心理の支援をするときに、対象、あるいは状況を対象化してみる。数値化してみる。科学として見る。そういう見方をする世界と、自我関与して、自分がそこに関与していったときに起こってくるいろいろなことも、もう一度自分の中で自己自身を対象化して状況を見ることができるようになっていないと、大変な状況に立ち会ったときに立ち往生するのです。そういうことが分かっている人を作っていくのが、やはり今回の重要なことで、それは臨床心理学だけをやっていればいいわけでもなく、科学としての心理学も必要、その両方を、言ってみれば相補ではなく、1人の中に体現している公認心理師を作る必要がある。
そういう意味で、臨床心理学を全体に、よく分からない学問で、その中を細分化して書いていくということではなく、基本的に必要なことだという態度を養い、体験内容を自分自身が整理していけるために必要なのが臨床心理学だと思います。」

第4回公認心理師カリキュラム等検討会ワーキングチーム(2016年12月22日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000150195.pdf

北村座長の発言面白すぎ
前の会合でも「ネズミ」「ネズミ」言ってたし

北村座長「450以上と思っていたのですが、バナナの叩き売りではないのでどちらでもいいのですが、400か500か。取りあえず400にしましょうか。」←大学院の実習時間について
北村座長「本音は、450時間プラス1分ぐらいで、専門職大学院よりは上だという。取りあえず450で置いていただいてと。」←大学院の実習時間,現在の臨床心理士専門職大学院の平均?が450時間ということを受けて
北村座長「演習を含めてというのは、実は学部でやる講義のような、パワポを見せて「分かりましたか」とやって、振り返ったら全員が寝ていたというような授業を、大学院でやってほしくはないので、せめてペーパーケースを出して、こういうクライアントがきた、グループでどう思うか検討する、それを発表するとか、アクティブにやってほしいのです。」←大学院の実習単位を何単位にするかの話で
北村座長「余り記録に残してほしくないのですが、この制度を作るときに善意の人ばかりでないことを考えています。制度にエラーがあって、大学院が冗談のような大学院で、国家試験対策をやる大学院が出てこないか。あるいは2号ルートですと、例えば中嶋先生の所の病院へ行って、「私を無料で雇ってください。そして実務経験を積んだという証明書をください」と。いわゆるインターンをやって、2年たって受験資格を得ます。そしたら、大学院は授業料は100万円以上ですから、200万円を得たようなものです。先生も無料で受験候補者を2年間使えるわけです。そのようなことが起こったら嫌だと思っています。そういう悪知恵が働く人のルートを塞ぎたいのです。

国試について:医師国家試験に準ずるくらいの気持ちで?
黒木構成員「アウトカムベースでやるということと、心理職の将来を考えると、医師に準じるぐらいの能力を持ってもらいたい。となると、医師国家試験の理念に近いもので構成したほうがいいのではないかと思います。」

第5回公認心理師カリキュラム等検討会ワーキングチーム(2017年1月12日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000160682.pdf

「実験演習」という科目大事(ミュラーリヤー錯視実験が事例問題的に出てたしな)
沢宮構成員「ちょっと話の流れを逆行させてしまうかもしれませんけれども、私は丹野先生のおっしゃった「基礎実験演習」はすごく重要であって、「心理演習」に含めるよりも、独立した科目として立てるようにしたほうが、適切ではないかと思います。」「理由は2つございます。第一に、「基礎実験演習」は心理学教育の根幹を支えるもの、いわゆるサイエンティスト・プラクティショナーの礎をつくる科目であるということ。第二は、「心理演習」は、どちらかというと臨床寄りの内容が多く含まれていて、少し性質が違うのではないかということ。この2つの理由から、「基礎実験演習」を科目として独立させたほうが望ましいのではないかと考えております。」
川畑構成員「私も独立させておいたほうがいいと思います。心理学の基本的なアイデンティティーに係る部分と、全てについての考え方の基本を学ぶという部分ということで。」
丹野構成員「「実験はあくまで大学でやる。」「学部できちっとした科学的な心理学を身につけなさいと。その上で実践を実習できっちりやるということだと思うので、科学的な心理学の基礎というのはキモは実験にあると思うのですね。自分の体を使って身につけるということなので」
沢宮先生は「一般社団法人日本心理学諸学会連合理事」で,丹野先生も基礎系心理を代表する立場から来ておられるけれども,川畑先生(日本臨床心理士養成大学院協議会会長)も同じ意見であることを示されたのは「基礎実験演習」大事,の議論の流れとして重要だったと思う。

実習の証明が今後難しそう
北村座長「20時間を公認心理師としての活動をしたというのが担保できるのならいいのですが、誰もクライアントがいないところにじっと20時間いて、20時間の実習を行いましたというのはペケにしたいので、それが担保できれば、ポートフォリオでいいと思います。」

特に引用しないけれど,2号コース=4大卒+指定された施設で実務経験の受験資格で,実務に加え大学院等での「座学」を入れるか否かが議論されているのは意外だったし,これは難しいわという印象。

所謂「現任者」について(受験資格をどう認めるか)
北村座長「例えば自分で相談室をやっている人は、心理士をやっているといっても、やっていることをどうやって担保するのか。それから、心理学科の大学教員であっても、大学院の相談室にかかわっていれば、心理士として臨床をやっているということはわかりますが、そうではなくて教鞭だけとっている場合は、これに当てはまらないのですね。」

吉川構成員「一応指定大学院を修了した人が受験資格を持つ可能性があるという理解でよろしいでしょうか。これは臨床心理士の合格者だけではなく、指定大学院を修了した人が該当する部分になると思うので、そういう状況を前提として、先に実務経験のカウントについての議論を行うということを確認させていただいた次第です。現任の心理職従事者が全員、現職証明を出す必要があるかどうか重要な問題になりますので。」←ああそうか,臨床心理士指定大学院を出たなら,大学院修了として経過措置対象になるはずと考えられ,だから臨床心理士=受験資格とならなかったのかも。

心理臨床をやってる人間の数(推定)
黒木構成員「トータルで言うと、以前の調査で推定したときは3万5,000人から4万5,000人の間。」→これは臨床心理士の数+α?
黒木構成員「臨床心理士以外のいろいろな民間資格まで拾うとですね。」
田﨑構成員「産業カウンセラーなんかもとると。」
黒木構成員「9万5,000人まで膨れ上がる。」
北村座長「また、文科省厚労省ともお話しになりますが、これは資格を差し上げるのではなくて、受験資格を差し上げるのであるから、余りぎりぎりに縛らなくていいような気がします。そこそこの経験があれば。」

大学教員の受験資格
北村座長「室員は問題ないのですが、そうでない人が受験資格もないというと混乱を起こしませんか。大丈夫ですか。心理学科の教授が公認心理師の資格を持っていませんで大丈夫ですか。」→笑。「室員」とは(指定大学院をもつ)大学付属の心理相談室のこと
宮脇構成員「難しいところですよね。大学の先生方に話をすると、基礎の先生なんかで、「俺も受験せなあかんようになるのはかなわん」と言われる方と、「受験させてくれ」と言われる方もおられます。それはいろいろです。」→これも笑えるが。「前に、精神保健福祉士のときは「現に」というのがありまして、その当日はやめて大学の教員になっている先生は、もう一度専門学校に行かれて、私は現場にいたので、うちの現場に実習を受けにこられたこともありました。それはちょっとえぐいかなと思ったのです。」

所謂「事例問題」について
北村座長またおもろい

北村座長「一般国民から言うと、2つ希望があります。1つは、無理とは思いますが、倫理的な問題も入れてほしい。それは100%の正答率でも構わないと思います。例えばお金持ちを優先してカウンセルするとか、あるいは心が悩んでいるのでつぼを売ってあげたとか、そういう絶対起こらないような問題をもしつくれるならばつくっていただきたい。」
北村座長「それと、クライアントの安全を確保する、こういうことを言っている場合は、これは精神科のドクターにコンサルすべき例ですよねという明らかなのを出していただいて、うちへ帰すみたいなのを間違いにしていただくとか、いろいろな工夫をして、初めからギブアップしないで。よろしくお願いします。」→ギブアップ云々は,「ケース問題を50%程度」とたたき台にあるのに対し,臨床心理士の事例問題みたいなのをそれだけ作るのは難しいと丹野先生が発言したのに対してだと思う。

第6回公認心理師カリキュラム等検討会ワーキングチーム(2017年2月22日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000160684.pdf

心理学統計法と心理学研究法をまとめて1つの科目にしないで!のお願い
丹野構成員「④の1、2、3、4という項目を2つにして、1と4が「心理学研究法」で、2と3が「心理統計」としていただけると有り難いと思います。心理統計というと、いかにも基礎的なイメージですが、そうではなくて、公認心理師が実際に心理アセスメントとか心理療法の効果などを見るときには、必ず統計的な考え方を使うし、非常に重要なのです。我々は研究法と統計法というのは違う科目だと認識しているので、分離をしていただければ有り難いと、そういうお願いです。」
北村座長は心理学統計法は研究者になる人がやる科目じゃない?という考えがベースにありそうな反応をしていたが・・・
北村座長「臨床心理士あるいは公認心理師という実践者というか、現場で働く人がどこまで必要かというときに、もちろん実験も研究法も知らなければいけないけれども、メインにはなりにくいのかというところで合体させていただく。だから、大学によって④を4単位にしてやっていただくのは全然構わないし」
沢宮構成員「今、丹野先生もおっしゃった「統計法」の問題です。心理学の研究で利用される代表的な統計手法を扱う「心理学統計法」は、サイエンスとしての心理学の礎となるだけではなく、心理療法の効果研究などにも欠かすことのできない重要科目です。例えばいろいろな問題に対してどのような援助がより効果的かを検討する際にも、「心理学統計法」は必須です。そういう意味では、臨床家が備えておくべき最低限の能力としても、「心理学統計法」は必要不可欠だと考えます。「心理学研究法」では、量的研究及び質的研究、事例研究を含むきわめて広範な内容を扱いますので、「心理学統計法」はこれとは別に、科目として独立させていただきたいと思います。」
丹野先生だけでなく沢宮先生も言い始めたので,北村座長「また検討します」と納得。

2号コース(4大卒+実務経験何年か)の年数を2年にするか3年にするかはたまた5年にするかの議論の中で
吉川構成員「私たちも臨床心理士を養成するときに、人の話をきちんと聞いて、そして相手が元気になるということは、別に臨床心理士であるカウンセラーだけの専売特許ではない。そういうことが上手な人は世の中にはたくさんおられます。ただ、表面上にこやかに、気持ち良く話を聞ける、専門知識をときどき会話に挟み込みながら話を聞いたり、やり取りできる人を育てればよいというわけではないのです。倫理を踏まえて、きちんと医療の専門知識も、あるいはそれぞれの領域の専門知識を踏まえた上で、それを会話の中で、相手の人格にきちんと届くようにお伝えしながら相手の言葉を自分の人格全体で受けとめられるように養成をしようと思うと2年では済まない。そこで3年のプログラムに非常に期待したいと思います。」

「基本的能力を主題とする問題」とは何か
北村座長「基本的姿勢を含めた基本的能力というものは、医師国家試験では必修問題というものがありまして、500問中100問が必修問題で、ほかが満点であろうが、この必修問題が8割でないと落ちるという。そこには極めて医師としての当たり前の能力などが規定されています。ですから、そういう問題もでき得るという」

国試に落ちた医師の卵の末路
北村座長「医師の場合は一応研修医として雇ってもらうのですが、国家試験で落ちたらその契約はもちろんなくて、ですから3月25日ぐらいに研修医の宿舎に引っ越して来て、国家試験を落ちて、30日にまた引っ越して去って行くみたいな、冗談みたいな現実があるのです。」

現任者講習会(60時間くらいが当初のたたき台)に関連して出てきた話(受講者数≒受験者数)
宮脇構成員「受験生も、言語聴覚とか精神保健福祉士のときのような受験生の人数では収まらないと思うのですよ。すごいことになるような気がして、それはここで話すことではないかもしれませんが、その辺もちょっと考えておかないといけないなと思ったのですが。」
北村座長「問題は、今、おっしゃられたのは講習の受講を60時間でやると大騒ぎになるかもしれない。1週間ぎりぎり、あるいは普通に考えて10日間として、10日間休める人がいない。あるいは土日土日を10日分といえば5週間かな。10日間を確保できない。でも、土曜日だけのコースで10週間、3か月ぐらい、それは無理ですかね。」→「大騒ぎ」とは,現・臨床心理士3万4千人が現任者講習会を受けることになったらという他の構成員の危惧を受けて。なお宮脇先生=医療心理師国家資格制度推進協議会副会長。
奥村構成員「会場確保が絶望的なのですね。オリンピックもあるし。なおかつ高い会場だったらあり得るわけですが、それだと恐らく受講生は10回受けたら20万円ぐらい払っていただかないと、とてもできないというのが実情です。」
北村座長「どこか山奥に合宿などというのは、10日間合宿コースとか。」→合宿コース・笑。北村座長,ほんと好きになっちゃいそう。
川畑構成員「現在の臨床心理士資格を持っている人は、ある意味、ほとんど①でいけるということだと思うのですね。」→なるほど。指定大学院修了≒臨床心理士有資格者は大学院修了資格で受験できるじゃないかのコンセンサスがグループ内に出来上がっていたよう。
北村座長「ただ60時間と決めて、そのうち30時間まで自宅学習を認めるというのは、ちょっと世の中が納得しないような気がしますね。微妙ですね。かと言ってスピーチセラピストが60時間なのに心理がそれより少ないというのは、世の中がびっくりしますね。」→ST<心理というイメージがあるのか。

第7回公認心理師カリキュラム等検討会ワーキングチーム(2017年3月9日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000161657.pdf

産業・労働分野について
増田構成員「実習科目ですが」「第2回目のときでしたか、論議になりましたけれども、産業・労働ですが、産業・労働の件で少し当たってみたのですが、企業とかは見学さえもちょっと難しいということがあるので、EAPだったり、個人開業、それからNPO等々で、勤労者のメンタルなりやっているところも入れてはどうかなと考えております。だから実際にこれがマストになると、産業・労働のところで、学部生が企業に見学に行くにしても、大学院生を見学実施させるにしても、ちょっとハードルが高いような気がします。」
北村座長「現状ではそのとおりだと思います。ただ、ここに入れることによって、現状を変えたい気持ちがあります。」「もちろん働かせ過ぎるのも問題なのですが、企業におけるメンタルケアというのは極めて今後、重要になってきています。」「是非、ここにもし条文が載ることによったら、厚生労働省は条文が載ってしまったのだから、国立病院あるいは労災病院、その他の病院でがん患者さんの職場復帰をやっているのだから、そこに心理師の人が入る仕掛けを作ってもらうとか、そういう見学する場所を増やしてもらう。もちろん企業のほうも企業内診療所とか、企業内などにいろいろとありますが、労働安全衛生委員会とか、そういう所の見学に来てもらうとか、いろいろな研修場所をつくってもらえるのではないかと期待しています。でも絶対、重要ですよ、今から。
北村先生は今までの発言の中で産業医を取りに行ったらしいから。

現任者講習会の時間数について「バナナの叩き売り」笑
北村座長「前回、60時間でどうでしょうかと言ったら、奥村構成員から「それは無理」と言われました。いろいろ相談したのですけれども、30時間ぐらいでどうでしょうか。別にバナナの叩き売りをしているわけではないのですが。

第8回公認心理師カリキュラム等検討会ワーキングチーム(2017年3月30日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000163789.pdf

現任者講習会について
松本主査(お役人)「時間としましては30時間程度というように、前例よりは少なめに抑えております。内容としては、以下の項目を含む講習ということで3つ挙げております。①は公認心理師の職責に関する事項、②は公認心理師が活躍すると考えられる主な分野に関する法規や制度について、③は分野に関係なく求められる精神医学を含む医学に関する知識、このように整理いたしました。」
北村座長「30時間で何を教えるかということで、①職責、プロフェッショナリズムとか、そういうことになると思うのですが、クライアントファーストというような心の問題プラス倫理的な法規の問題。公認心理師は壺を売らないみたいな話です。本当に講習会で心が鍛えられるかというのは非常に難しいとは思いますが、でも、やはり訴えたい。クライアントファーストで、心の健康を害した人のために、自分の身も心も尽くして働くのがこの公認心理師だということを是非教えていただきたいと思っています。」→北村先生,また“壺”言ってる・笑。でも本当にご本人の良心に基づいて,おっしゃっておられることが感じられる。
この会では4大卒+実務経験を2年にするか3年にするか非常に紛糾している。結局2~3年(3年を標準とする)を案として上の会に上げるとなったようだが。

第3回公認心理師カリキュラム等検討会(2017年4月13日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000164450.pdf

統計法と研究法は一緒にしてほしくない,再来
子安構成員「気になるのは心理学研究法の中に統計を含むとなっている点です。心理学研究法というのは、ある意味ではデータをどのように集めるかということで、観察、実験、調査、心理検査、面接といったことで、具体的に人と接してデータを集める方法についての授業が心理学研究法です。」「もう1つの統計法と言われているものは、むしろデータをどのように分析して、それをどう表現するかということで、やはり研究法とは別のものであるということです。ですから、中に含めるとするには、大きな課題であるだろうということです。」


第4回公認心理師カリキュラム等検討会(2017年5月10日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000166126.pdf

3団体(臨床心理職国家資格推進連絡協議会,医療心理師国家資格制度推進協議会,一般社団法人日本心理学諸学会連合)連名で,「公認心理師法における「その他その者に準ずるもの」につきまして」「「準ずるもの」に専修学校の卒業者を含めないことを強く要望」するとの文書(この他にも,専修学校4年を認めてほしくないという文書複数続く)
一般社団法人日本心理学諸学会連合が代表して,既存の大学シラバス(研究法と統計法は別)や心理統計法を教えている大学教員連名リスト等々結構な資料をつけて「「心理学研究法」から「心理学統計法」の科目を分離独立させること」の要望文書

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000164471.pdf

議事録最初の方で「現任者」とは,について議論が多少なされているが,特にはっきりした結論が出ないまま終わっている感じ。
次に4大卒に「準ずるもの」として4年制の専修学校を認めるか,かなり議論されている。現在大学院受験資格として認められている4年制の専修学校が数少ない(議事録では心理系?で4校と言及)ながらあるし,他のSTやPSWも4年制の専修学校を認めているので,法の作り方として認めるべき・・・という流れ(北村座長もどちらかというとこっち側)になっているが,心理系臨床心理士系が抵抗している。

北村座長「先ほど文部科学省からも説明があったように他の職種、あるいはこの制度を作った法の精神から言うと排除できない。排除という言葉は悪いですけれども、そこで窓口を狭くするのは難しいということで是非、御理解をお願いいたします。ただ、決してそれはすぐに資格を与えるわけではなくて、大学院に入る資格であり、実務経験を積む資格であり、当然その先に更に国家試験を受ける資格ができるということです。専門学校を出た人は楽になれるとか、そういうことでは全くありません。その方にとってのキャリアにとっては、その先も大変なものです。先ほどおっしゃったように細い、ゼロではないけれども、なれなくはないけれども、楽な道ではないということで是非御理解を頂けたらと思います。」

子安構成員の心理学統計法は研究法とは別の科目として立ててほしい
石隈構成員,川畑構成員も賛成

北村座長「いや、もっとうちは統計をやりたいのだからというので合計8単位でやっていただいても全然構わないのですが、ミニマムリクワイアメントとしては、この2つをくっつけて2単位ぐらいでいかがでしょうかというところなのです。別に私がそう思っているわけでもないのですが。」→「ミニマムリクワイアメント」は何度もおっしゃっている。
北村座長「おっしゃるとおりです。実はこのゴールデンウイークに随分、統計の本を読みまして、勉強したのですが、読めば読むほど大事ですよね。逆に、言ってみれば心理学研究法や、その下の心理学実験は、統計の知識を無くして教えることはできないと思います。だから、統計を教えないで心理学研究法や心理学実験はできないので、ここから外してもいいぐらいです。統計法は入っているのは当たり前でしょうと。改めて外出しにしなくてもいいぐらい統計は大事ですと言ってもいいほどに、世の中に統計は大事だと思います。
北村座長,統計の本を勉強する(ほっこり;そうかそうか,そんなに心理学の先生が力説するならちょっと勉強しなきゃと考えて実行する,ほんまええ人やな~と感銘を受けた。)
統計法を心理学実験とくくる案もあわせて出てきたが,それは割合さっくりと否定されたっぽい。

第5回公認心理師カリキュラム等検討会(2017年5月31日)
議事録(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000171406.pdf

専門職大学の話がちらっと最後に出てきたくらい。報告書(案)でいく感じ。
移行措置の「現任者」が一体何万人で,どれくらいの人数が受験してくるかは分からないなあという話。

報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000169346.pdf

結局研究法と統計法は別立てに。
4大卒+実務経験は2年以上となったが,実務なら何でもいいかというと,そうではなく厚労省文科省が審査・認定したプログラムを実施する施設等に限る。また「標準的には3年間でプログラムを終えることが想定される」と。

2つの帯グラフを横に合体(備忘録)。

アンケート調査の項目,例えば「現在の生活に満足しているか?」に対して「満足している」「まあ満足している」などの選択肢から1つ選んで回答した結果を,男女別や年代別に100%帯グラフでまとめる場合,このページ(内閣府)のように,例えば男女別の帯グラフを縦に並べて示すことが一般的だと思います。
しかし,スペースの都合上,同じ項目に対する回答結果を,1つのグラフに詰め込みたい場合にはどうしたらよいか?
※以下データ出典:内閣府「国民生活に関する世論調査https://survey.gov-online.go.jp/h30/h30-life/index.html
通常こんな感じの男女別100%帯グラフを
f:id:lionus:20180830113907p:plain
このように,1つの項目に対する男女の回答を横に連結してみたいと思いました。
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見やすさでいったら,前者の方なのでしょうが,限られたスペースに詰め込む必要があったので,色々試行錯誤しました。
自分のための備忘録のため,プロセスはかなりはしょっています。悪しからずご了承ください。
最大のポイントは,男女の帯グラフのうちどちらかの割合を示す軸を「第2軸」にした上,表示する数値範囲にマイナスの値を設定することです。
所謂Excelグラフでの「人口ピラミッド」の作り方を参考にしました。
例えば:
bellcurve.jp

以下,今回自分がやった手順です。
(1)まずExcelにデータを入力します。
f:id:lionus:20180830114417p:plain
(2)(1)のデータから100%帯グラフを作成すると,男女合わせて100%の帯グラフっぽいものができます。
f:id:lionus:20180830114724p:plain
(3)男性の系列のうち何かをクリックして選択し「第2軸」に設定しますが,この指定した系列のみの100%帯グラフになってしまいます。
f:id:lionus:20180830115022p:plain
(4)「グラフの種類の変更」から,男性の系列すべてを「第2軸」に指定します。
f:id:lionus:20180830124237p:plain
すると「第2軸」の男性の帯グラフだけ表示された状態になります。
f:id:lionus:20180830124447p:plain
(5)「第2軸」の書式設定から,表示数値範囲を0~1.0から,-1.0~1.0の範囲に指定すると,第2軸のマイナス側に女性の帯グラフが現れます。
f:id:lionus:20180830124711p:plain
けれども,女性の帯グラフの%軸数値表示が,なんかおかしいです。右半分の男性の帯グラフ側まで突き抜けた0%~100%になっています。
(6)女性の%表示の軸=「第1軸」の書式設定で,表示数値範囲を0~1.0から,-1.0~1.0の範囲に指定した上で,軸を反転させます。
f:id:lionus:20180830125200p:plain
(7)すると縦軸のラベル(項目名)が帯グラフの真ん中に埋もれてしまうので,書式設定画面でグラフの右端に表示するよう設定します。
f:id:lionus:20180830125456p:plain
(8)「第1軸」「第2軸」ともに「-100%」などマイナスの値が表示されていてかっこ悪いので,軸の書式設定の「表示形式」をいじりマイナスの値は表示しないように設定します。
f:id:lionus:20180830130114p:plain
(9)男女ともに同じ選択肢は同じ色になるように帯グラフを編集する。
まず,グラフ右半分の男性の各系列(「満足している」~「わからない」)の凡例を1個ずつ個別にクリックして選択→[delete]キーで削除。
f:id:lionus:20180830130653p:plain
男性の各系列の凡例をすべて削除したら,男性の各系列の色を女性のそれと同じになるように(表示されている凡例に一致するように),塗りつぶしの色を変更。
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(10)横に並んだ帯のどちらが男性・女性か分かるように,軸ラベルを追加したり,データラベルを追加したりして,完成。
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単なる自己満足だったかもしれないけれども,画像編集とか使わずにここまでできたのはよかったです。
なお,「ア 所得・収入」~「キ レジャー・余暇生活」の並びが,下から始まっていますが,「ア」から始まるようこの縦軸を上下反転させると,グラフ全体がおかしな感じになるので,ここは断念しました。上から「ア」から始まるようにしたい,という場合は,Excelデータの時点で,「キ」からはじまる(縦方向のみ)逆順で入力したらいいと思います。今回使った仕事上のデータではそうしました。

臨床家のためのDSM-5虎の巻

臨床家のためのDSM-5 虎の巻

臨床家のためのDSM-5 虎の巻

DSM-Ⅳ-TRで頭が止まっていて,DSM-5をもとにした話は何がなんだかちんぷんかんぷんなので,アップデートのために読んでみました。
DSM-5が分かったとは言いませんが,Ⅳから5で何が変わったのかのツボは押さえられているように思えたし,著者先生たちの個人的?な意見があちこちでこぼれているのが読んでいて面白かったです。

p.22
発達精神病理学出世魚現象
子どもにカテゴリー診断学を当てはめたときに,しばしば生じる現象が異型連続性(heterotypic continuity)である。一人の子どもが,診断カテゴリーを渡り歩く,あるいはいくつもの診断基準を満たす現象であるが,この呼称があまりに固いのでわれわれは最近「出世魚現象」とよんでいる。ツバス→ハマチ→メジロ→ブリと名前が変わるように,子どもの臨床像が,カテゴリー診断学を当てはめると変化をしていく。わが国で有名は出世魚減少(原文ママ)の好例として,斉藤(2000)による注意欠如/多動性障害→反抗挑戦性障害→素行障害へと展開する破壊的行動症群の行進(DBDマーチ)があげられる。

出世魚ワロタ。

p.58
児童青年期精神医学を学ばすに今後精神科医は生き残れない
ある雑誌の編集会議の後の懇親会で(中略)ある高名な精神科医の発言に驚かされた。彼は,統合失調症診断の中に,発達障害,とくに自閉症スペクトラムの誤診が無視できない数で紛れ込んでいるという事実は認めつつも,「自分はだからといって発達障害を学ぼうとは思えない」ときっぱりといいきったのである。
(中略)
このような旧態依然たる態度で,将来も精神科医を名乗ることができるだろうか,と懸念を覚えたものである。何よりも児童領域の精神医学を知ることによって,精神医学は予防の科学に展開することができる。これまで,統合失調症の治療経験がないものが精神科医を名乗ることはできないとされてきた。統合失調症の臨床経験はもちろん今後も重要であるが,発達障害の臨床経験抜きに精神科医を名乗ることが今後困難になるのではないかと思う。
精神医学の新たな時代はすぐそこまできている。

著者先生のご専門というかお立場が色濃く反映している意見だとしても,なかなかうなずける気がする。

pp.94-95
強迫の時代は到来したか
強迫性障害の研究者ザルツマンはかつて,19世紀はヒステリーの時代であったが20世紀は強迫の時代であるという意味のことを述べた。この言葉はかつて,一部の社会学者からもずいぶん評価されていたという印象を受ける。わが国においては,強迫症はキッチリズムの愛称とともに,民族的な特徴の1つとまでもいわれた時代があった。(中略)たしかに強迫性がなくては新幹線も走らないだろうし,ロケットも打ち上がらないであろう。キッチリ行うという基盤によって,わが国の繁栄がもたらされ,その一方で,たとえばメランコリー親和型うつ病など,他の疾患においても強迫性の関与が指摘されてきた。
さてそれでは強迫の時代がきたのだろうか。そうではなさそうという印象を筆者はもつのであるが(中略)どうもその反対の自傷ばかりが目立つのである。国際比較における子どもの学力は低下し,容易に仕事を辞めてしまう若者が増え,手抜きや偽装ばかりが目立つようになりと。その代表といえば,メランコリー親和型うつ病に対する「新型うつ病」である。
だが新型うつ病について言及したところで少し触れたように,いまや目立つのは強迫よりも発達凸凹の存在である。このことはさらに別の連想をわれわれに導く。強迫の背後に,発達凸凹の存在を見落としていたことと,ヒステリーの背後にトラウマの存在を見落としていたことは,ともにこれまでの精神医学の欠落であった。すると21世紀のキーワードは,強迫ではなく,発達凸凹とトラウマということになるのだろうか。いくらか牽強付会であるが。

「どうもその反対の自傷ばかりが」以下述べられている現象は,どちらかというと21世紀に入ってから顕著ではないか,20世紀の話ではないのではないか,とも思うのですが,トラウマといえば1995年の阪神淡路大震災を機にPTSD(トラウマティックストレスによる精神障害)が注目されるようになったり,日本では20世紀末あたりからまあ確かにそんな感じだなとも思えます。
上記「発達凸凹」とは,他の箇所では「発達障害」と書かれており,それも確かに,20世紀末~21世紀に入ってからクローズアップされていることは同意です。

p.112-113
非物質関連障害(Non-Substance-Related Disorders)
この奇妙なカテゴリーはDSM-5で新設されたものである。(中略)このカテゴリーは現在ギャンブル障害のみであるが,今後,嗜癖に関連した疾患概念が追加されていくものと予想される。(中略)ギャンブルは物質関連障害の物質と同様に脳の報酬系に作用することがわかっている。インターネットゲームも同様に脳の報酬系に作用することがわかっているが,ギャンブルよりはっきりしていない。繰り返しの行動=嗜癖行動であるセックス移動,運動依存,買い物依存などは,精神疾患としての行動異常と認めるには十分なエビデンスがない。
(中略)DSM-Ⅳで病的賭博と同じカテゴリーに所属していた放火癖および窃盗癖は,DSM-5では,「破壊的,衝動制御および行為の障害」の章に残り,抜毛癖は「強迫関連障害」の章に移動した。

ICD-11にゲーム障害?が入るとかいうニュースをちらっと聞いたことがありますが,そういう感じなんでしょうかね。
嗜癖っぽいけれども何をどうクラスター分けするかの基準は考えものですね。

心理統計法入門

サイエンス社から献本をいただきました。
当方大学の教授でもないのに何で献本いただいたのかな?と思うのですが,多分某非常勤先の心理学研究法の授業で,サイエンス社のテキストを教科書指定して使っているからかもしれません。
思いもかけずいただいたものですが,現在心理統計の教材を作っている際にとても参考になっています。本当にありがとうございました。
内容は記述統計から,心理学でよく使う各種検定,多変量解析の入り口まで広く浅くですが,非常に短く要点を押さえた記述で,派手さは無いものの,よく考えて作られていると感銘を受けました。
統計学の本は,ユーザーフレンドリーを意識してかマンガ仕立てにしてあったり,動物や女の子などのキャラクターを登場させて講師役との対話形式や物語形式にしたりなどの工夫をしているものがしばしばあります。しかし,本書は,全然そんなことはなく数式もそれなりに出てくるし大学の教科書らしくそっけない作りです。
でも,いいなあと思ったのは,数式が例えば標準偏差がσとかギリシア文字で表記されていたりするようなガチな感じじゃなくて,「データの個数-1」とか,一部言葉で表現されていることで,文系人間には有難いです。
解説の進め方も,この手法は何をどうしているのか,分かりやすく,でもくどくどと迂遠にならない程度で書かれているので,意味も分からずただ計算しているということになりにくいです。こういう書き方は,ご本人が数学的によく把握していないとできないだろうなと個人的な主観ではありますが,感じました。
ただ,広く浅くなので,分散分析での単純主効果の検定など,ちらっとふれているだけで具体的な計算方法までは書かれていないなど,扱い切れていないところもあります。でも,限られたページ数でひととおり扱うためには取捨選択は致し方ないと思いますので,不満には思いません。十分理解できます。
地味だけど素晴らしい教科書だと思います。

曲線相関?擬似相関?と相関係数と偏相関係数の例題。

目下一生懸命心理統計系の授業資料を作成中なのですが,教材で使うデータ例を探す(作る)のに案外苦労しています。
例えば,曲線相関とか,抽象的には何例か思いついても,実データとして例示するのは難しいんですよね~
必ずしも心理データではないですが,例えば,時刻と列車乗客数とか。U字型の散布図になりそうじゃないですか?じゃあそういうデータを探そう,と思ってもどこを探したらよいのやら。授業ではまた別なものを探して,散布図を提示できましたが,なかなか。
そういうことをやってる中で,記事タイトルの内容を色々含む&公開データで自由に使えるものを発見したので,覚書兼ねて書いておきます。

携帯電話の普及につれて,街中の公衆電話が少なくなったように思いませんか?
ということで,総務省のデータを使って,
公衆電話設備数の推移(平成28年度末時点)
携帯・PHSの加入契約数の推移(単純合算)(平成29年9月末時点)
平成12年度~平成28年度の携帯電話契約数と公衆電話設備数の相関係数を出したところ,r=-0.933 で,予想通り強い負の相関でした。
さらに,加入電話(固定電話)も加えた三つ組みで相関をみたところ(データは携帯電話と同じページ「分野別データ:通信:契約数」からDL),
携帯電話×公衆電話:r=-0.933
携帯電話×加入電話:r=-0.978
公衆電話×加入電話:r=0.865
となりました。
携帯電話と加入電話が強い負の相関なのは,携帯電話におされて加入電話が減っているという最近の実感(携帯があれば固定電話いらないな~)に一致しますが,公衆電話と加入電話は強い正の相関?というのは少し意外でした。
ここで,携帯電話は公衆電話と加入電話どちらにも強い負の相関なので,もしかすると公衆電話と加入電話は携帯電話の影響による擬似相関かもしれないと,携帯電話を制御変数にして,公衆電話と加入電話の偏相関係数を求めたところ,-0.625 で,負の相関となりました。つまり,携帯電話の影響を取り除くと,加入電話が増えれば公衆電話が減るという関係で,まあ自宅で固定電話が使えれば,公衆電話を使う機会少ないと思うので,そういうものかもしれないとある程度納得。
ここまでで,擬似相関と偏相関係数の例題としては結構面白かったのですが,まだ何となく気になったので,H12~H28よりもよりデータを増やす=長期間のデータで見てみたいなと,ぐぐってみましたが,案外なかなか出てこず,あきらめかけたとき,総務省統計局のページがひっかかってきて,昭和60年~平成28年までのデータを確保することができました。
日本の長期統計系列 第11章 情報通信 11-4 電気通信サービスの加入等の状況
S60~H28のデータで,加入電話と公衆電話の散布図を作ってみたら,みょーな形なのにびっくり。
f:id:lionus:20180320132832p:plain
半分右上がり,半分右下がりの逆U字型ともとれるし,何ともいえない感じです。
そこで,時系列を見てみようと,S60~H28の携帯電話,公衆電話,加入電話の二軸の折れ線グラフを作ってみたところ,平成7年からの携帯電話の急増が,何かの区切りになっていそうです。
f:id:lionus:20180320133111p:plain
平成7年といえば,阪神・淡路大震災が発生した年です。
当時,地震発生後,電話回線の輻輳により電話がつながりにくくなったときにも携帯電話は比較的つながりやすかったことから,携帯電話の有用性が認められ普及率が上がったといわれています。

携帯電話は(中略)当時、普及の進展期にあった。この結果、地震発生直後から、被災地では安否確認、緊急通信、受話器はずれ等のため通話量が急増し、電話回線が輻そうしたものの、初期数日、携帯電話は一般電話より通じやすかった

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/html/nc143d00.html

兵庫県では、阪神・淡路大震災後、携帯電話に対するニーズが高まり、携帯・自動車電話の加入者の増加率が全国の増加率と比べても大きくなった。

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/html/nc143d00.html

平成7年を境に,加入電話や公衆電話に対する,携帯電話の影響の質が変わったとみて,データを分析しなおした方がよさそう,ということで,データをS60年~H6年,H7年~H28年の2つに分けて再分析してみました。
S60~H6:
携帯電話×公衆電話:r=-0.549 弱い負の相関
携帯電話×加入電話:r=0.852 強い正の相関
公衆電話×加入電話:r=-0.663 弱い負の相関

  • 家に固定電話があれば,外で公衆電話はあまり使わない
  • 昔の携帯電話は,ビジネス利用や一部の富裕層?加入電話と携帯電話の両方持ち?

H7~H27:
携帯電話×公衆電話:r=-0.965 強い負の相関
携帯電話×加入電話:r=-0.963 強い負の相関
公衆電話×加入電話:r=0.852 強い正の相関(携帯電話を制御変数にした偏相関係数は-0.174)

  • 携帯電話が急激に普及しはじめてからは,公衆電話と加入電話の相関はほぼなしに
  • 携帯電話が加入電話と公衆電話両方を“駆逐”する存在に?

以上,擬似相関&偏相関係数の例題というだけでなく,層別にデータを分けて再検討することも必要という相関係数の総合例題になりました。
よかったよかった。

ことわざと心理学 -- 人の行動と心を科学する

ことわざと心理学 -- 人の行動と心を科学する

ことわざと心理学 -- 人の行動と心を科学する

引退された心理学名誉教授による,社会人向け公開講座で「ことわざの心理学」を講じたことが,本書の執筆のきっかけだそうです。
扱われている「ことわざ」は全部で10個。
ただ,「ことわざ」を話の呼び水としていても,内容はきわめてマジメ真面目です。実験心理や社会心理の研究をひきながら,あくまでもガチアカデミックな立場から「ことわざ」を解釈解説しておられます。
索引もきっちり,引用・参考文献もきっちり。大学初年次の基礎演習的な授業にも使えそう,とも書いておられます。

ベストをつくす教育実習 -- 強みを活かし実力を伸ばす

ベストをつくす教育実習 -- 強みを活かし実力を伸ばす

ベストをつくす教育実習 -- 強みを活かし実力を伸ばす

編者の先生で,知っている先生がひとりおられたので目についたのですが,えっ,この先生が「教育実習」についてのノウハウ本?と,何だか気になって読んでみました。
大昔出身高校に教育実習に行かせていただいた身からは,あるあるあるあると思うところ多々あり。タイトル通り「教育実習」に行く予定の大学生のための指南書でした。
特に,早いうちから体験実習?などで現場に出る機会がある教員養成系大学生ではない,教職をとっているけれどもの一般大学生・・・教育実習に行く前のこまごました実践的なトレーニングが少ない層に向けた内容でした。
本書のサブタイトルは「強みを活かし実力を伸ばす」ですが,裏サブタイトルとして「”実習公害”と言われないために」があったりして・・・とも感じたり(^^;)そういう内容も含まれています。
現在の自分には教育実習そのものは直接関係ないのですが,以下2点が印象に残りました。

  • 大学における教員養成と開放制―一般大学・学部における教職課程の意味とは?

p.5
日本では,教員養成系大学・学部だけでなく,一般大学・学部でも教員免許状を取得できます。教員を養成するという機能が,すべての大学(短期大学を含む)に開かれています。しかし,たとえば医師になるためには医学部入学が前提ですし,薬剤師も薬学部入学が前提です。つまり,閉鎖性をとっているわけです

同じ「免許制」でも,人材養成の「開放制」と「閉鎖性」の違いがある。
「開放制」をとっている理由として,2006年の中央教育審議会答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」を引用しながら:

p.5 最も重要なことは,「多様な人材を広く教育界に求めること」
p.6 教師集団が多様であることの重要性を意味しています。
p.6 教師が多様であるからこそ,子供の多様性が学校の中で尊重されるわけです。
p.6 もちろん,上述した相当免許状主義と相まって,一定の共通する能力を保持することは必要不可欠です。「一定の共通する能力」は,大学の教職課程での学びを通じて保障されます。

  • 教育者の意図のとおりに学んでくれるとは限らない

p.155
教育社会学者の広田照幸は,教育を「誰かが意図的に,他者の学習を組織化しようとすることである」と定義しています(広田2009,p.9)。教育という社会的行為は,教育する者とは別の人格や背景をもった他人に対して介入する,本質的におせっかいな行為だというのです。このように考えると,教育される他者は教育者の意図のとおりに学んでくれるとは限らない,というリスクが生じることになります。広田はそのリスクのパターンを3つ,紹介しています。

p.155
第1のリスクは,教育を受ける側が,教育に対して,常にやりすごしたり離脱したりする自由をもっているということです。

マイクロな例では, 授業中にぼーっとよそ見をしたり,別なことを考えていたり。

p.155 第2のリスクは,教育を受ける側が,教育する側が意図したものとはまったく異なるものを学んでしまうということです。
p.156 教育をする側の意図とは別に,生徒が”勝手に”学んでしまうことがあります。

(本書で挙げられていた具体例・あるあるw)
世界史で漫画「ワンピース」を導入に使ったら,「ワンピース」しばりの範囲ばかりに興味がいってしまった
話の導入として自分の体験談をしたら,先生の自慢ばかりで意味がわからなかったといわれたり
生徒にかけた何気ない一言が,頑張るきっかけになった,らしい??

p.156 第3のリスクは,教育の働きかけは相手によって,まったく異なる結果が生じるということです。
p.156 教育は,ある方法が絶対的に正しい,絶対的に悪いということはありません。ある人には効果的だった方法が,別の人には効果がない場合もあるし,ある教師の優れた実践が,他の教師でも同じ効果を持つとは限りません。

p.156
このように,教育は他者に対する行為であるために,その行為の結末は予見できない「賭け」だということができます。教育はその「結果」ではなく,「目的(意図)」によって教育であるとみなされるのです。どんなに優秀な教師でも失敗しますが,だからといって試行をやめることはしません。さまざまな知識や技術,テクノロジーについて学習し,それらを用いて成功率を高めるためにトライをし続けているのです。

太字重要。