青春放浪から格差の経済学へ

ミネルヴァの"シリーズ「自伝」my life my world "に新刊が出たので早速読んでみました。
西宮のお生まれで大学は小樽商科大ですが、大学院は阪大、その後阪大→京大→同志社→京都女子大と勤務されてきたということで、地理的に親しみを感じました。
語られていた研究テーマの幅広さと、著書の多さに驚きました。
「目次」から拾ってみます。

第九章 どのような内容の研究を行ったか
1 共同研究の多さ
2 労働問題
 賃金決定と賃金格差
 最低賃金
 雇用と失業
 労働組合の経済学、昇進の経済学
3 金融問題
 金融業の研究
 貯蓄
4 格差問題
 貧富の格差
 ピケティ旋風
 貧困者のこと
 お金持ちのこと
5 教育格差
6 教育の現場
 大学の歴史と現在
 灘高校
社会保障
 セーフティネットと安心の経済学
 非福祉国家の日本
 無縁社会
8 女 性
 女性の労働
 女女格差
 女性の教育
9 働くということ
 働くことの意味
 働くための社会制度
10 家族のこと
 家族に関する啓蒙書
 家族に関する学術書
11 幸福のこと

研究内容と関連するご本が沢山出てくるのですが、労働問題、格差問題、教育格差といった点については非常に興味の惹かれる本ばかりで、ああまた読みたい本が増えすぎる。(^^;;)
研究だけでなく教育についてもご意見を書かれていますが、その中で、なるほどなと思った箇所を引用します。「教養部」とは阪大時代のことです。

p.69
教養部での実践から学んだことがいくつかある。それをやや詳しく書いておこう。第一に、教養部において経済学概論や入門コースを教えるのは若手の教員よりも、研究・教育を蓄積したヴェテランの担当とした方がよい、という印象を持った。当時の私はまだ30代半ばであり、頭の中は自分の研究業績を蓄積することに精一杯なので、教育には大きな関心はなかったし、研究上や教育上の未経験も響いた。多くの若手教員もそうではないかと想像できる。一方で長年のヴェテランにあっては、研究と教育の経験が豊富なだけに一年生や二年生に対して何をどのように教えれば興味を抱いてくれるかが分かっているのである。現に私はヴェテランになってから、同志社大学では新入生用の「日本経済入門」を教えたが、阪大教養部時代に新入生に対して教えた時よりも、自分の口で言うのはおこがましいが、はるかに分かりやすく、かつ学生に興味を持つように教えることができたと自負している。誇張すれば年を重ねて高水準の研究を上げられなくなったこともあるし、枯れた心境のヴェテランの方が概論や入門コースの教育には向いているのではないか。

そうそう。
専門的な内容≒狭くちょっと深く/研究の最先端は若い人の方が、間口を広くとる必要のある入門・概論は酸いも甘いもかみ分けたヴェテランの方が向いているというのは同感です。
多少若いからといって新入生の”気持ち”がよく分かるとは限らないと思います。