密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿

密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)

密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿 (岩波新書)

新着図書の棚で目について読んでみました。
著者は,最高裁に”密着”して取材する新聞記者で,文体も軽妙なのでスラスラスラスラとしかも面白く読めてしまいました。
素晴らしい,新書らしい本だと思います。

iv
最高裁って,下世話で知的で,ロジカルでウェット。
それが,司法のトップに密着した僕の結論です。
最高裁はエリート中のエリートたちが,むずかしい法律論を飛び交わせながら,ものすごく通俗的なトラブルの解決を導き出そうとしているところです。

v
でも,そうした最高裁の面白さが,世間にあんまり伝わってないんじゃないか。

著者は,”しくみ”がある程度分からないと対象の面白さは味わえない,として,最高裁の”しくみ”について,民法分野での親子関係不存在確認と夫婦別姓裁判員制度の下で行われたいくつかの裁判例を通じて,最高裁って,こんな仕事をしてるんだよ,と説いてくれます。
読みながら「へぇ~」ボタン連打だったのですが,特に印象に残ったのは,裁判員裁判では,裁判員にも量刑判断を求めるのは,なかなかの重荷なのでは的な記述でした。
確かに,アメリカでの陪審制は有罪・無罪の判断だけだし。
何で,日本の裁判員制度では有罪無罪の判断だけでなく量刑判断まで求めるようにしたんだろう,とその背景が知りたく思いました。

p.183
裁判員に選ばれた方たちが担う仕事は大きく2つ。まずひとつめは,被告が本当に有罪かどうかを見極めること(有罪無罪の判断),そしてもうひとつが量刑の判断です。

pp.183-184
ただ,このうちの前者,有罪無罪の判断については,比較的とっつきやすいでしょう。「法廷に立つ被告人が真犯人なのかどうか」は,ふつうの人でも意外に日常感覚に基づいて考えることができるからです。
被告の言動に信頼を置けるか。検察側が示す証拠が信用できるか。そうした問題は,シロかクロか,あるいは「疑わしきは罰せず」という無罪推定の原則から考えても,クロと言い切れるか……という話です。プロの裁判官でも,アマチュアの裁判員でも,最終的には心証(裁判で感じた印象や確信)が決め手となります。

p.184
手こずるのは後者,量刑の判断です。
罪の重さという,もともと定量的に測ることができないものを数値化する作業ですから,誰もが納得できるような公式があるわけではありません。それでもプロの裁判官には,過去の経験にもとづく量刑相場がありますが,市民から選ばれた裁判員には,そんな職人的な量刑相場観もありません。

まー心証形成についても,そんなに単純なものかな?とも思いますが,二者択一の問題だから,量の判断に比べればずっとましでしょうね。