監査人監査論―会計士・監査役監査と監査責任論を中心として―

監査人監査論‐会計士・監査役監査と監査責任論を中心として‐

監査人監査論‐会計士・監査役監査と監査責任論を中心として‐

読むのに思ったより骨が折れました。
けれども,面白かったです。
ベテラン会計士による,監査基準等の解説が最初にあって,続いて会計不正関係の判例の検討がなされています。
大和銀行NY支店事件など,同じ事件でも弁護士や法学者による判例検討とは,また一味違う内容と拝見しました。
この判決では何かこのへんまあいいか的に流されてるけれど,会計実務からしたらちょっとおかしいよね!みたいな突っ込みだな~というところがいくつかあって面白かったです。
以前,『命燃やして―山一監査責任を巡る10年の軌跡』を読んだときだったか,会計監査におけるリスク・アプローチなる言葉を知ったのですが,ちょっとぐぐってもよく分かりませんでした。
本書では最初のあたりでリスク・アプローチについて解説されていて,それを読んでもやはり実務を知らないせいかまだまだピンときていないのですが,米国から導入した,効率的効果的に会計監査ができるよ!のリスク・アプローチについてのエピソードのところで笑ってしまったので,少々長くなりますが,引用します。

pp.23-24
リスク・アプローチの考え方は,虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し,その評価を通じて実施する監査手続やその実施の時期および範囲を決定することにより,より効果的でかつ効率的な監査を実現しようとするものである。それは無用とされる監査手続を排除もしくは省略することができるという効果をもたらすことになる。
しかし,この思考体系には,逆の意味で監査リスクを伴っていることも忘れてはならない。たとえば,日本の監査法人の若手会計士が,代表してアメリカの研修(大手会計事務所による世界的規模で開催される研修制度)に参加して,帰国し,日本で,その研修の結果を披露(国内研修会)することになった。監査リスクの手法を導入したときには(提示された研修教材の中で),仮払金と未払費用(未払保険料,未払家賃などが含まれている)は,金額が小さいから,監査リスクが低いと判断して,「監査範囲から外してよい」という説明であった。それは「潜在的に存在する監査リスク」を無視したとんでもない判断である。
仮払金の内訳をみて,金額が小さいから外す,そのような判断は,職業専門家として会計士は判断すべきではない。仮払金の中に,弁護士費用が処理されていたならば,何らかの訴訟が行われているものとして,追加監査手続を実施すべきなのである。つまり,重要な監査の入り口をみつけたと考えるべきである。また,未払費用であるが,一般的には監査リスクが低い勘定科目であるが,提示されたものが未払保険料(火災保険料)と未払家賃であったから問題なのである。日本において,保険契約で立替払いは認められていない。もし,保険代理店が立て替えて払っていて,保険契約は継続しているとして,保険料さえ払っていなかったのか,また,家賃については,日本の慣行では,当月分の家賃は,前日末日までに支払うことになっている。その家賃が未払いであるということは,それだけ「資金繰りが苦しいのか」と判断をすべきで,それが職業専門家としての経験であり,懐疑心をもって判断し,追加監査手続が必要になる事例なのである。
このようなリスク・アプローチの考え方は,虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し,その評価を通じて実施する監査手続やその実施の時期および範囲を決定することにより,より効果的でかつ効率的な監査を実現しようとするものである。リスク・アプローチに基づいて監査を実施するためには,監査人による「各リスクの評価」が決定的に重要になる。そのためには,景気の動向,企業が属する産業の状況,企業の社会的信用,企業の事業内容,経営者の経営方針や理念,情報技術の利用状況,事業組織や人的構成,経営者や従業員の資質,内部統制の機能,その他経営活動に関わる情報を入手し,評価することが求められる。

勘定科目と金額の大きさだけ表面的にみて,本質的なところをみてないアチャーな例だよね,ということです。

この他,監査法人の設置が認められた経緯*1など,あーなるほどなー*2と,興味深かったです。

*1:事務所単位だと,特定の監査契約報酬に収入の多くを依存するため,監査対象に対する独立性が確保されない=お得意先の顔色をうかがって適切な監査ができない可能性,など。

*2:自分も,ちょっと前に担当した社労士調査データ分析で,顧問先企業に物言えるためには収入の分散=一定以上の顧問契約とか多角化等が必要,と考察したことがある。