社会調査 しくみと考えかた

社会調査 しくみと考えかた (放送大学叢書)

社会調査 しくみと考えかた (放送大学叢書)

放送大学の教科書をもとに改めて書かれたものです。
一般的な事柄が示されている感じだったので,内容確認しながらさらっと読むかなと思っていたのですが,メモをとりながら結構じっくりと読んでしまいました。
社会調査の経験が豊富な著者先生ならではの広く浅くだけれども,随所にはっとするような記述があってよかったです。
分かっていなかったことも散見されて,自分は勉強不足だなと思いました。
例えば,すべての人の回答がほぼ一致しそうな事柄については,「回答者の属性と賛否の関係を問うこと,一般的にいえば連関を見出すこと(p.22)」が無意味になることは当然ですが,さらに,

p.23
公共施設などの利用率を上げるために,来館者に対して調査を行うことがよくある」ある程度意味あるかもだけど,「一番肝心の問題は,利用者と非利用者を分ける要因は何かということである。利用者だけを対象とした調査データを用いたのでは,このことを明らかにすることは不可能なのである。

あちゃ~と思いました。
もうひとつ,あちゃ~っと思ったこと:

p.117
標本統計量から母集団統計量を推測するための統計学理論(推測統計学)とは,計画標本と調査母集団の関係を述べたものである。つまり,回収率が100%である場合にのみ有効なのである。

えっ
心理の質問紙調査などでは受講生を対象に集合調査形式で実施することが多かったので,こういう視点がすぽっと抜け落ちていたと自戒。
(回収率の低かった有効標本から統計的推測を行うことは)

pp.117-118
厳密にいえば統計学理論の誤った適用といわざるをえない。

p.118
仮に統計的推測が行われたとしても,そこで明らかになったのはあくまでも調査母集団の状態である。この結果を目標母集団の状態にまで一般化してもよいだろうか。この問題は,目標母集団から調査母集団への限定のしかたにかかっている。

自分は個別面接調査をしたことがないので,「聴取調査」についての記述は参考になるところ多かったです。
著者先生は,指導している学生それぞれに,高齢者1名に「高齢者の生活と意見」聴取調査を行わせていたとのことですが,まあ予想されるように,自分の祖父母を対象に調査を行ってくることが多い。しかし,その調査は「私のおじいちゃん/おばあちゃんに聞いてきました調査」ではナンセンスで,

p.202
聴取調査が社会調査としての意味をもつのは,そのテーマや対象が社会性(これは「普遍性」といいかえてもよい)をもつときである。

臨床の事例研究にも通じますね。

もうひとつ,事例調査の事例を選び出す基準として,「(1)代表性,(2)典型性,(3)先駆性」とあり,今後何かあるときの参考にしようと思いました。

pp.203-204
(1)代表性というのは,問題となっている社会事象に関して,他の個体と類似の特徴を共有しているという性質である。(2)典型性とは,社会事象に関する特徴が極端あるいは純粋な形で現れているという性質である。(3)先駆性とは,今後増大するであろうと予想される特徴を有しているという性質である。

また,上記(1)~(3)にあたらないような少数事例であっても,それを社会に問うことに意味があると思われれば採用すべきである旨も述べられています。

「第六章 社会調査の現在」では,プライバシー意識の強まりなどで社会調査への回答率(協力率)が下がっている→調査をめぐる状況はなかなか困難になってきていることを示した上で,調査者の回答者に対する誠実性(真摯に対する姿勢)の重要性が述べられています。

「社会調査を支える信念―何のための社会調査か?」

p.240
社会調査を支えるのは,用途はさまざまであるとしても,究極的には人びとを「豊かにする」という信念であると,あるいはそういう信念に支えられねばならないと,筆者はとりあえず考えている。