新井紀子先生は一橋大学法学部ご出身だったのか(驚)。

http://www.janu.jp/report/files/janu_vol46.pdf
来るべきAI時代。求められる能力と,いま必要な教育とは。(国立大学/国大協広報誌Vol.46)
「東ロボ」プロジェクトの新井紀子先生のインタビュー記事です。
むっちゃいいです。必読です。
AIを知ることはヒトを改めて知る,再発見することにもなるのだと。
以下,自分用メモに抜粋。

「AIは文章がこのあたりで区切れる可能性が高いとか、こう答えたら最も正答性が高いといったデータから、このあたりを答えればいいだろうということしか分からないのです。東ロボくんも論述式の問題を解きますが、一見なんとなく整った解答が出てくるものの,単に記憶していることを並べているだけで質問に答えていないという文章の内容でした。つまり東ロボくんは言葉の意味を理解していません。そこがAIの限界です。」

「AIが言葉の意味を理解できるようにするには、“記号列を意味に対応させる数学の理論”が必要になります。私は数学基礎論を専門にしていますが、実は、この分野の数学は1960年代初頭から目覚ましい進展がありません。AIが言葉の意味を理解できる段階に達するには、根本である数学がイノベーションを起こす日を待たなければなりません。AIが今の理論や統計を使っている限り、どれだけ多くの人材と費用をかけても文章の意味を理解できるようにはならないのです。」

そうそう。そうなんだよね。これが理解されていないことが多い。

東ロボくんは言葉の意味を理解していないにもかかわらず、センター試験で日本の高校3年生の上位2割に食い込んだ。この結果から、新井教授はある大きな問題に気付いた。
「問題の意味が分からないAIがこれほどの成績を取れるなら、実は人間のほうも意味を分からずに試験を受けているのではないかと考えました」

この考えを検証するため、2015年に新井教授は「リーディングスキルテスト」を開発。主に中学生を対象に、教科書から抜粋した一般的な文章を正確に読めているかどうかという調査を開始した。
(中略)
しかし実際にテストをやってみると、「非常に憂慮すべき事態」であることが分かったという。

「やはり読めていなかった。正しく読めば間違いようのない文章なのに、かなりの中高生が読めていない。文章の意味が分かっていないのに知識だけで答えるというのは東ロボくんと同じです。ロボットができることを人間がわざわざやるのは無駄なことです」

「文章の意味が分からないということは、単に教科書が読めないということだけの問題ではありません。教科書が読めない人は、社会に出てから安全マニュアルも読めませんし、そのような労働者を雇うことは、企業にとってもリスクを負うことになります」

記事本文中には,リーディングスキルテストの設問例があり,具体的にどう読めてないのかの例が示されています。

「これから先、多くの仕事はAIに代替されてしまいます。(中略)自分の仕事がなくなったとき、新しい組織へ移って仕事をやっていけるかどうか。それは、新たなことを柔軟に学び取る能力に関わってきます。その場合も“読んで意味が分かる能力”が重要なのです。」

東ロボくんには実装できなかった“読んで意味が分かる能力”が、これからの時代の人間に必要な能力であると説明する新井教授。

「近年の科学の進歩により、学習指導要領の内容は増えていますが、教科書のページ数は増やさないように内容が詰め込まれています。そのため、説明が足りず、意味の分からない文章が増えているのです。さらに、教えることが多くなり、授業では全員が理解できるまで時間をかける余裕もなくなっています。結果的に、生徒たちは“意味は分からないけれども暗記するしかない”という事態に陥っているのではないかと思います」

授業で教科書を全部消化できないとしても,しっかり書かれた教科書があれば,自分で読んで学習してくれる子どももいるかもしれない。
リッチな教科書絶対必要!

後半,ご自身の一橋大法学部時代の経験をもとに,大学教育にも言及。

「意味をきちんと理解できる能力が備わっていれば、大学の授業はとても楽しくなります。(中略)18歳までの価値観が塗り替えられるようなものが、大学の教養教育だと思います。(中略)そうなるためには、受け止める側の素地が必要です。意味の分からないことをそのままにせず、きちんと理解するという基礎的な能力を早い段階の教育で身に付けなければ、高等教育の内容が理解できず、大学時代が意味のないものになってしまいます」

法学部でありながら教養課程で高度な数学の講義にふれることもできた,とも。

「当時の国立大学の多様性やそれを受け入れる余裕、そして教養主義といったものがなければ、今日の文理融合的な自分はなかったと思っています」

法学部出身者=社会科学の素養をもとにした新井先生独特の視点が最後に。

「今、私たちは民主主義の大きな岐路に立っているかもしれません。“歴史を知らない者は同じ過ちを繰り返す”とはよく言いますが、劇的な社会変動についていけない人々がどのような行動を起こしたか、歴史を振り返れば同じようなことが何度も起きています」

民主主義を揺るがすほどの変革をもたらしかねないAI。
“読んで意味が分かる能力”は、AIに仕事を奪われないために人間が備えるべき基礎的な能力である。人間とAIが共存する社会へと発展を続けるためには、その人間らしい能力を活かし、自然科学・社会科学にまたがるように視野を広げ、歴史に学んで未来を予測することが求められる。こうした時代の変化についていけない人はどうなるだろうか。我が国の未来は、自らの頭で考え、変化に正しく対応していける人材教育にかかっているといっても過言ではない。