鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡

鉄道会社がエンタメもやる。
重厚長大なインフラ系企業が軽佻浮薄な商業エンタメ,一見正反対のように見えますが。

p.33
「競争と平等」「虚と実」「和と洋」「伝統と挑戦」……そんな対極の価値観を,決してどちらも否定することなく内包し続けている。だからタカラヅカはわかりにくい。しかし,その貪欲さ,懐の深さこそがタカラヅカのエネルギーの源泉であり,ひとたび壁を乗り越えてその沼に溺れてしまった人はハマり続けるのだ。

「電車を走らせるかのごとく」公演を続ける

pp.37-38
たまたま過去の取材ノートをめくっていて,かの「ベルサイユのばら」で知られる大御所演出家・植田紳爾氏のこんな言葉を見つけた。
「阪急は基本が鉄道会社なので,1回の公演ごとの収支で考えるエンタメの会社とは発想が違うところがある。毎日粛々と公演を続けるのも,電車を走らせるのと同じ」
タカラヅカが100年続いたのも,鉄道会社がやっているからというのもある。常に世界に目が向いている。最新の技術をすぐに取り入れるという姿勢。それと共通するものがタカラヅカにはある」

特にタカラヅカファンではないのですが,阪急民としてなかなか楽しく読みました。
本書を読むと,タカラヅカはファンの熱い深い愛に支えられてきていることがよくわかります。
しかし,可愛さ余って憎さ百倍とのごとく,その熱い深い愛は諸刃の剣であること,そしてSNS時代,少数であっても声が大きいとあたかもそれが主流のように一時見えてしまったりする危険性など,タカラヅカこれからも大丈夫かしら,いや頑張って気をつけてずっとずっと安泰で,独特の“タカラヅカらしさ”を保ち続けてほしい!といった,著者の切なるタカラヅカ愛が感じられる一冊でした。