臨床家のためのDSM-5虎の巻

臨床家のためのDSM-5 虎の巻

臨床家のためのDSM-5 虎の巻

DSM-Ⅳ-TRで頭が止まっていて,DSM-5をもとにした話は何がなんだかちんぷんかんぷんなので,アップデートのために読んでみました。
DSM-5が分かったとは言いませんが,Ⅳから5で何が変わったのかのツボは押さえられているように思えたし,著者先生たちの個人的?な意見があちこちでこぼれているのが読んでいて面白かったです。

p.22
発達精神病理学出世魚現象
子どもにカテゴリー診断学を当てはめたときに,しばしば生じる現象が異型連続性(heterotypic continuity)である。一人の子どもが,診断カテゴリーを渡り歩く,あるいはいくつもの診断基準を満たす現象であるが,この呼称があまりに固いのでわれわれは最近「出世魚現象」とよんでいる。ツバス→ハマチ→メジロ→ブリと名前が変わるように,子どもの臨床像が,カテゴリー診断学を当てはめると変化をしていく。わが国で有名は出世魚減少(原文ママ)の好例として,斉藤(2000)による注意欠如/多動性障害→反抗挑戦性障害→素行障害へと展開する破壊的行動症群の行進(DBDマーチ)があげられる。

出世魚ワロタ。

p.58
児童青年期精神医学を学ばすに今後精神科医は生き残れない
ある雑誌の編集会議の後の懇親会で(中略)ある高名な精神科医の発言に驚かされた。彼は,統合失調症診断の中に,発達障害,とくに自閉症スペクトラムの誤診が無視できない数で紛れ込んでいるという事実は認めつつも,「自分はだからといって発達障害を学ぼうとは思えない」ときっぱりといいきったのである。
(中略)
このような旧態依然たる態度で,将来も精神科医を名乗ることができるだろうか,と懸念を覚えたものである。何よりも児童領域の精神医学を知ることによって,精神医学は予防の科学に展開することができる。これまで,統合失調症の治療経験がないものが精神科医を名乗ることはできないとされてきた。統合失調症の臨床経験はもちろん今後も重要であるが,発達障害の臨床経験抜きに精神科医を名乗ることが今後困難になるのではないかと思う。
精神医学の新たな時代はすぐそこまできている。

著者先生のご専門というかお立場が色濃く反映している意見だとしても,なかなかうなずける気がする。

pp.94-95
強迫の時代は到来したか
強迫性障害の研究者ザルツマンはかつて,19世紀はヒステリーの時代であったが20世紀は強迫の時代であるという意味のことを述べた。この言葉はかつて,一部の社会学者からもずいぶん評価されていたという印象を受ける。わが国においては,強迫症はキッチリズムの愛称とともに,民族的な特徴の1つとまでもいわれた時代があった。(中略)たしかに強迫性がなくては新幹線も走らないだろうし,ロケットも打ち上がらないであろう。キッチリ行うという基盤によって,わが国の繁栄がもたらされ,その一方で,たとえばメランコリー親和型うつ病など,他の疾患においても強迫性の関与が指摘されてきた。
さてそれでは強迫の時代がきたのだろうか。そうではなさそうという印象を筆者はもつのであるが(中略)どうもその反対の自傷ばかりが目立つのである。国際比較における子どもの学力は低下し,容易に仕事を辞めてしまう若者が増え,手抜きや偽装ばかりが目立つようになりと。その代表といえば,メランコリー親和型うつ病に対する「新型うつ病」である。
だが新型うつ病について言及したところで少し触れたように,いまや目立つのは強迫よりも発達凸凹の存在である。このことはさらに別の連想をわれわれに導く。強迫の背後に,発達凸凹の存在を見落としていたことと,ヒステリーの背後にトラウマの存在を見落としていたことは,ともにこれまでの精神医学の欠落であった。すると21世紀のキーワードは,強迫ではなく,発達凸凹とトラウマということになるのだろうか。いくらか牽強付会であるが。

「どうもその反対の自傷ばかりが」以下述べられている現象は,どちらかというと21世紀に入ってから顕著ではないか,20世紀の話ではないのではないか,とも思うのですが,トラウマといえば1995年の阪神淡路大震災を機にPTSD(トラウマティックストレスによる精神障害)が注目されるようになったり,日本では20世紀末あたりからまあ確かにそんな感じだなとも思えます。
上記「発達凸凹」とは,他の箇所では「発達障害」と書かれており,それも確かに,20世紀末~21世紀に入ってからクローズアップされていることは同意です。

p.112-113
非物質関連障害(Non-Substance-Related Disorders)
この奇妙なカテゴリーはDSM-5で新設されたものである。(中略)このカテゴリーは現在ギャンブル障害のみであるが,今後,嗜癖に関連した疾患概念が追加されていくものと予想される。(中略)ギャンブルは物質関連障害の物質と同様に脳の報酬系に作用することがわかっている。インターネットゲームも同様に脳の報酬系に作用することがわかっているが,ギャンブルよりはっきりしていない。繰り返しの行動=嗜癖行動であるセックス移動,運動依存,買い物依存などは,精神疾患としての行動異常と認めるには十分なエビデンスがない。
(中略)DSM-Ⅳで病的賭博と同じカテゴリーに所属していた放火癖および窃盗癖は,DSM-5では,「破壊的,衝動制御および行為の障害」の章に残り,抜毛癖は「強迫関連障害」の章に移動した。

ICD-11にゲーム障害?が入るとかいうニュースをちらっと聞いたことがありますが,そういう感じなんでしょうかね。
嗜癖っぽいけれども何をどうクラスター分けするかの基準は考えものですね。