放送大学の一挙放送でお勉強する。

放送大学の授業番組は,放送大学の学生でなくてもBSで視聴できます。
7月15日から9月30日まで,「夏期特別編成」「夏期学習期間」として,前期に週1で放映(開講)されていた各科目を固めて一挙放送しているので,面白そうなものを録画して視聴(お勉強)しています。
BS番組表:
https://www.ouj.ac.jp/hp/bangumi/nenkan/bangumi_1/2020/bangumihyo.pdf#page=6

https://www.ouj.ac.jp/hp/bangumi/nenkan/bangumi_1/2020/bangumihyo.pdf#page=12

最初に視聴完了したのは,「危機の心理学('17)」。
第1回 危機と人間
第2回 エラーと危機
第3回 事故に遭う危機
第4回 犯罪に遭遇する危機
第5回 孤独という危機
第6回 貧困という危機
第7回 うわさと風評被害
第8回 自然災害に遭遇するという危機
第9回 環境破壊という危機
第10回 戦争という危機
第11回 危機についての認知と感情
第12回 危機からの回避とリスクテイキング
第13回 危機後の成長
第14回 危機についての教育
第15回 危機の心理学

社会心理学認知心理学,臨床心理学,発達心理学社会学行動経済学など,「危機」をキーワードとして幅広い領域を提示されていて,なかなか面白かったです。

こういうサイトがあることを知ったりとか:「復興の教科書」https://forr.cc.niigata-u.ac.jp/fukko/

オンライン授業でパソコン使う時間が長くなったからタイピングが上達したのか?!

自分が非常勤で担当する科目について,ぼちぼち最終授業日を迎えつつあります。
先日実技試験代わりの最終課題の提出・締切が終わり,採点してみたところ,従来の受講生よりも,新型コロナの影響でオンライン授業(オンデマンド)になった今年2020年春学期の方が,タイピングテストのスコアが全体的に高いような印象を受けました。

自分が担当する授業の一部で,今学期のオンライン授業に関するレポートを課していて,ぼちぼち採点中なのですが,「今までスマホ利用でパソコンを使う機会がほとんどなかったが,オンライン授業でパソコンを使うことが増え,パソコンの使い方に慣れてきた・タイピングも速くなった」とかいう感じの感想が散見されることもあり,昨年2019年と2020年の比較をしてみました。

単一学部のみの受講生から構成され,年度が違っても等質性はかなりな程度あると思われるクラスで2019年春と2020年春の,タイピングテストスコアを比較してみました。

  • タイピングスコア測定:e-typingの「腕試しレベルチェック」
  • F検定により等分散性のチェックをおこなった上で,等分散を仮定する独立した2標本のt検定を利用

その結果,2019年春はスコア平均123.8,2020年春は173.7と,50近い差で2020年春の方が高く,t検定でも0.1%水準で有意な差がありました。
しかし,この結果からオンライン授業がタイピングスコア向上に影響した,つまり,先にあった学生感想のような「オンライン授業でパソコン使うことが増えたのでタイピングも上達した」,とは言い切れません。
といいますのも,

  • 2019年春は,パソコン教室端末で時間制限のある実技試験として,アセアセとなりながらやったスコア
  • 2020年春は,オンライン授業で現地実技試験ができないため,自宅で,1週間内という提出期限あるがどれだけ時間かけるかは各自に任された状況でのスコア

ということで,2020年春はともかく自分が納得できるだけやってみて,一番良かったスコアを提出してきている人が結構いるはずで,全然2019年春と違う条件なので,単純比較はできず,結局何ともいえないな~という感じです。

他方,今年のスコアを見て感じたことがもうひとつあります。
スコアの絶対的評価という面です。173.7というスコアが高いか,という点については,
e-typingのページを見ると,
「158~174」で「B-」,「個人的な用途でのパソコン利用には問題のないレベルです。正確さを意識して更にスコアアップを目指しましょう。」
だそうです。大学生ならこれで十分じゃない?と思われるかもしれませんが,学生さんの様子を(従来からリアル授業で)みてきた経験からすると,この程度(200未満?)だと,ホームポジションからほとんどキーボードを見ずにタッチタイプができる現状ではなく,ちらちらとキーボードを見ながら,一部の指だけを使ったなんちゃってタッチタイプ風という状態ではないかなと推測します。
ちらちらとキーボードを見ながらある程度の速度で打つ,という状態は,頻繁に視線(頭・首)の上下左右の動きが起こりますので,とても,とても疲れるはずです。
実は私も,中学校の頃からパソコンを使っていましたが,上記のような自己流”なんちゃってタッチタイプ風”で,確かに,ある程度の速さでは打てるが,1~2時間もワープロ作業をすると若いのに首肩ガチガチ,頭や目も痛い痛いとなっていました。好きで使っているのに,疲労が半端ない。
大学に入学して,TypeQuickというタイプ練習ソフトを見つけ,
www.datapacific.co.jp
大学の端末で暇にあかして練習したところ,ちゃんとしたタッチタイプができるようになり,パソコン文字打ちによる疲労苦痛が激減しました。
このような経験から想像するに,平均的な大学生だと,一日に4~5時間程度(90分授業×3コマだと4.5時間になる)オンライン授業の受講や,課題をやる程度でも,疲労感はものすごいはずです。過去の私のように必ずしも好きでやっているわけではない(”強制”されている?)ので,余計疲労感マシマシでしょう。
オンライン授業きついきついという大学生の声は巷にあふれていて,まあ急ごしらえの体制でやっているし,うまい具合な調整ができてないところも多々あるだろうからと思うのですが,一方で,こういうタイピングスキルの不足=パソコン利用基礎体力の不足?も背景にあるかもしれないなあと感じた次第です。

Macで作成ファイルのファイル名文字でハマる。

ExcelVBA(マクロ)を使ってやりたいことが,Macで作成されたファイルの,ファイル名文字という思わぬことが原因で頓挫することを経験したり,その他にもいくつか新しいことを知ることができたので,備忘録的に書きます。

やりたいことは,Word・ExcelPowerPointで作られた複数ファイルの「作成日」や「最終更新日」,「最終更新者」などいくつかのプロパティを一覧でExcelファイルかCSVファイルとして取得することでした。

ちょっと探したら,複数ファイルのプロパティをCSVで一覧出力するフリーソフトは見つかりました。
ファイルのプロパティ取得ツール - 複数ファイルのプロパティ情報をまとめて取得
でも自分がやりたかったこととはちょっと違う。
何が違うか。少しぐぐったら,ファイルのプロパティとは別に,Word等Officeソフトで作られたファイル特有の「ドキュメントプロパティ」というものがあることを知りました。
このフリーソフトでは前者を出力するもので,後者ではないことが分かり,では「ドキュメントプロパティ」なるものをどうやって取得するのか?
そのドキュメントプロパティを書き換えたり消去したりするフリーソフトは結構ありそうでしたが,複数ファイルの任意のドキュメントプロパティを一覧出力するフリーソフトはちょっと見つかりそうになかったので,Excelマクロでそんなことができないか,あれこれぐぐってみました。
officetanaka.net
このページはドキュメントプロパティには「Excelがあらかじめ定義している「組み込みのドキュメントプロパティ」と、任意の名前やデータを記録できる「ユーザー設定のドキュメントプロパティ」の2種類があり」,組み込みのドキュメントプロパティはマクロからNo指定して取得・操作できることが分かるなど,かなり参考になりましたが,当初の自分がやりたいことにまでは到達できませんでした。
その他,ExcelマクロでOfficeソフトのドキュメントプロパティを一覧取得できそうだということに関しては,
makoto-watanabe.main.jp
とか参考になりそうでしたが,ファイルの拡張子も x なしだったり,マクロの仕様(?)が古いようで,残念ながらそのまま現状に応用できないようでした。

続いて探索するうちに,Excelマクロで参考になりそうなページが見つかりました。
www.relief.jp
これこれ!と,目的に合うように一部書き換えて,動作させてみたらいくつか不可解な動きはあれど,Wordファイルに加えExcelファイルに対しても,まあまあやりたいことはできるようになりました。
さらにPowerPointファイル用に一部マクロを書き換え試してみたら,1個目のファイルが開いたまま,頓挫。ファイルを閉じて次のファイルにいくところで止まっているらしい。
Close メソッド (PowerPoint) | Microsoft Docs
Open メソッド (PowerPoint) | Microsoft Docs
PowerPointのファイルをOpenしたりCloseしたりするメソッドや,開かれたプレゼンテーションを非表示にするオプションを適宜加えて,何とか動作するようになりました。

しかし・・・まだ問題が残っています。
マクロを実行させると,このようなエラーが出て頓挫することがしばしば起こるのです。
f:id:lionus:20200703161951p:plain
このようなエラーで止まってしまったきっかけになっていると思われるファイルを集め,そのファイル群対象にマクロを実行したところ,当然といえば当然ですが,最初っから同じエラーが出て動きません。
ファイルはあるのに「無いよ」と言われるのは,ファイル名に原因があるのか?と思い,FlexibleFileRenemerというフリーソフトで,ファイル名をあれこれ削ってみたり,ファイル名中の特定の文字列を削ってみたりしましたが,原因?となる文字列が分かりません。
「Flexible Renamer」ファイル名を思い通りに一括変更 - 窓の杜
思い切って,もとのファイル名全消しで,01.docxといった連番のみのファイル名にしたら,正常に動きました。
やはりファイル名中の何かの文字列が悪さをしているようです。
何が悪いのかな・・・とFlexibleFileRenemerの画面を眺めていると,
f:id:lionus:20200703163318p:plain
左の「現在の名前」に含まれる「ビ」という文字が,右の「新しい名前」では「ヒー゜」と表記されています。
これは何?!?!?!
とりあえずファイル名中の「ビ」を削除し,マクロを実行すると正常に動作しました。
なるほどなるほど。
もうひとつこの画面をきっかけに気がついたのは,この(マクロが頓挫する)ファイルたちは,Mac利用者からもらったものが含まれていることです。
Macで作成されたファイルのファイル名に「ビ」や「プ」濁点や半濁点が含まれているのが何かやばいということで,ぐぐっていくつか記事を読んでみたら,色々新しいことを知りました。
HFS+のテキストエンコーディング – ものかの
HFS Plus - Wikipedia
ものかの >> archive >> Unicode正規化 その1

ざっくりと理解したのは,

  • MacではHFS+というファイルフォーマットを使っていて,そこではファイル名フォルダ名にUTF-16のテキストエンコーディングを採用している
  • けれども,それにはMacの独自仕様が混じっていて,素直なUTF-16ではない
  • そのMacの独自仕様UTF-16テキストエンコーディングでは,濁点や半濁点が含まれる文字は1文字ではなく2文字(例:ビ→ヒ゛)で扱われるらしい
  • WindowsOSは,そのMacの独自仕様に対応?していて,エクスプローラ等ではファイル名を適当に”忖度”して表示してくれている

やだねえ。こんなの。
いちいちMacな人のファイルをより分けて処理するというのは現実的ではないので,上記のようなファイル名問題について何か対処法はないのかぐぐっていると,ナイスなフリーソフトが見つかりました。
www.gesource.jp
「ファイル名やフォルダー名をWindowsの流儀に変換」してくれます。
このソフトでファイル群を処理した上で,マクロを実行させると意図通りの作業ができるようになりました。
よかったよかった。有り難いことです(^人^)

世界の心理学50の名著

書店で見つけて,それぞれの”名著”をそれぞれ10ページ程度にまとめて紹介されているのを見て,面白そうだなと即買いしました。

  1. 脳科学から考える人間の心理
  2. 無意識の影響力
  3. 幸福の心理学
  4. 自分を理解するための心理学
  5. モチベーションの研究
  6. 私たちが愛する理由
  7. ビジネスに効く心理学

以上の章(テーマ)ごとに”名著”が取り上げられています。
アカデミックな立場(大学の先生とか)から”名著”,”定番”,”古典”と呼ばれているものも沢山見られるのですが,本書の特色はアメリカのポピュラー心理学での名著(ベストセラー)も積極的に取り上げているところだと読みました。
アカデミックな立場からすると,基礎系が弱い!あれがない!これがない!と多々言われそうな感じですが,ウィリアム・ジェームズが紹介されているのもほほう!だったし,ちゃんとパブロフ,スキナーも入っていますから,許してください,というかアメリカのポピュラー心理学にはこういうものがあるんだと知ることは面白かったです,という感じです。

個人の”ホームページ”用にレンタルサーバを申し込む。

担当している大学非常勤が,この春からオンライン授業になっていて,今も続行中です。
非常勤先のLMSを活用しているので,特に不便はなかったのですが,担当する科目の一部で,学生提出物(HTMLファイル等)をサーバにアップロードして,クラス内に公開するということをするために,どうしたらいいか?となりました。
従来は,非常勤先が提供する授業用webサーバがあり,それを使っていたのですが,学内限定の公開で,大学内の端末からしかアクセスできません
一応,少し工夫すれば自分はその授業用webサーバにアクセスし,ファイルをftpできるのですが,現在基本的に大学構内には立ち入り出来ない→ すなわちオンライン授業で学外にいる学生はそのwebサーバのコンテンツを見ることができません。
うーん。
じゃあLMSにHTMLファイル等をアップして,それをクラス向けコンテンツとして見せようか?と,自分の試作品をアップしてみたのですが,挙動がなんかヘン。
具体的には,ページの動作が妙にもっさりしているのです。
友人に上記のようなことをざっくり話したら,JavaScriptなどスクリプトを使っているHTMLファイルなら,セキュリティチェックがなされているのでは?下手したら一部のJavaScriptコードは動作しないかもしれない,というコメントをもらいました。
なるほど。確かに。当該LMSはむっちゃスクリプト避けしてる様子だわ。

かくなる上は,仕方ない・・・
自腹を切ってレンタルサーバを借りて自前の”ホームページ”を作り,そこに何らかの閲覧制限をかけた上で学生作品を掲載することにしました。

さくらインターネットロリポップ,一番安いプランで比較して,さくらの方がちょっと安かったので,さくらに決めました。
早速普通に申し込んだ・・・つもりだったのですが,何かがおかしい。
さくらインターネット会員ページにログインして,サービスの契約状況を見ると,
さくらのメールボックスと書いてある。
んんん?メールボックス?????
よく分からんなあと思いつつ,サーバのコントロールパネルを見ても,どこにもサーバにファイルをアップロードできるようなメニューがない。
あるのはメールサーバ的なメニューだけ。
ヘンだ変だやっぱり変だと思い,あれこれ調べてみても,やはり「メールボックス」と「レンタルサーバ(ライト)」は別物のよう。
困った困った,意図しない申込みでクレカ引き落とされたらたまらんと,会員ページを凝視していたら,申込み取り消しのようなボタンがあるのでポチってみました。
けれども,一向に何も変わらないような感じだったので,さくらインターネットのサイトからチャットサポートにアクセス,「さくらのレンタルサーバライトを申し込んだつもりなのに,さくらのメールボックスになってしまっている。変更していただきたいです。」的なメッセージを送ってみました。
最初15人待ちで小1時間くらい待ったら,お返事がきて,チャット開始。
まあ結論からいえば,「メールボックス」の申込み取り消しは完了していて,今はクリアな状態とのこと,改めてレンタルサーバを申し込めばOKということでした。
よかったよかった。

改めて「さくらのレンタルサーバライト」を申し込み,10~15分ほどして仮登録完了のメールがきたので,その情報をもとにコントロールパネルから,当面必要な設定(https転送など)をおこない,お試しにhtmlファイル等をftpして,ブラウザ上での表示・動作を確認。
まあこれで何とかなりそうです。

なお,上記申し込みの成立画面をスクショしていたものを見返したところ,最初の申し込みの分にはしっかり「お申し込みプラン メールサービス さくらのメールボックス」と表示されていました。
確かに「レンタルサーバ(ライト)」の申し込み画面から入ったはずなのに,どこで間違えたんでしょうね・・・
不思議です。
それにしても「メールボックス」には午後のひとときを振り回されました。サーバの申し込みからファイルftpと動作確認までは30分もかからなかったのに。
今日一日分の気力を使い果たした感じです。

ところで,自分で”ホームページ”を開くのは10年以上ぶりです。大昔niftyがプロバイダ契約ユーザに無料(おまけ?)提供していたホームページスペースを使ってやっていました。掲示板とかも設置してたなあ。
やめてしまった理由は忘れました(^^;)
単に面倒くさくなったんだと思います。

今回はからずも,久々に自前のweb上スペースを持つことになりましたので,他のオンライン授業で何か必要があれば使える場所ができたと,自腹は痛いけど前向きに考えたいと思います。

新版 災害と日本人―巨大地震の社会心理


本書は「第1部 日本人の災害観」「第2部 地震予知の社会心理」,そして1995年1月の阪神淡路大震災後に出された新版で追加された「補章 阪神大震災を実地調査して」から構成されています。
まず第1部では,関東大震災の事例を豊富にとりあげながら,日本人の災害観は①天譴論,②運命論,③精神論の3つを抽出しています。
なかなか面白いです。
その他,この第1部で出てきた「知識のギャップ理論」は興味深かったです。

pp.130-131
たとえば,キャンペーン研究の分野には「知識のギャップ理論」と呼ばれるものがあるが,この理論はそのことをはっきりと指摘している。
 この理論によれば,啓蒙キャンペーンを実施すればするほど,住民の間の知識のギャップは広がっていくという。つまり,キャンペーンに接触する人々は,もともとその事柄に関心があり知識がある人々であって,キャンペーンをすればするほど,そうした人々の知識は増加していく。ところが,キャンペーンが本来目標にしている,知識も関心もない人々は,こうしたキャンペーンを無視することがきわめて多いのである。その結果,キャンペーンを重ねるにつれて,知識層と無知識層との間に以前からあった知識のギャップは,ますます大きくなっていくというわけである。もともと啓蒙キャンペーンには,こうした難点が存在しているのである。
 ところが,防災キャンペーンは,こういう難点に加えて,防災の努力を阻害するような災害観の存在があるため,二重の意味で難しいといわねばならない。しかも,災害観は日本人の精神の基底にある自然観や宗教観と密接に結びついているわけだから,これを完全に払拭することは相当に困難と考えられる。

あー。分かる分かる。啓蒙キャンペーンじゃなくても,普段の授業でもあるあるな傾向。

第2部は社会心理学者として,理論と実践(ご本人たちの研究グループで実施したアンケート調査データの分析)の両面から流言や地震予知の社会的影響について論ぜられています。

最後の補章では,「ちょうど当時,日米都市防災会議が大阪で開かれており防災関係者が集まっていたので,その研究者数人と九時半ごろタクシーを頼んで神戸を目指して出発し(p.267)」,現地の状況をつぶさに見た上での,防災研究者としての談話が書かれています。
高速道路が横倒し!など,日本の”安全神話”が崩壊した,などと当時言われていましたが,以下は知らなかったです。

pp.270-271
 さらに付け加えると,近代施設の被害では,情報システムもひどかった。兵庫県は八十億円を使って自治体衛星通信による防災通信システムを入れており,これは日本でも最先端をいくシステムであった。ところが,地震の一揺れでこれが六時間にわたって故障してしまい,国や市町村との通信がほとんどできなくなった。高度の防災情報システムが地震によって動かなくなったわけで,安全神話崩壊の中に,新幹線,高速道路,地下鉄に加え,高度情報システムも入れておく必要があると思う。

人類にとってエイズとは何か


こちらも広瀬弘忠先生によるエイズについての本です。先日書いた記事の本よりも後(本書は1994年)の出版です。
第1章にある「図1-1 現代社会のインデックスとしてのエイズ」という図は,感染症と社会について参考になる考えだと思います。

  • 五つの構造的誘発因子:大規模な地理的移動,活発な社会移動,人口の都市集中,性的解放,社会規範の拘束力低下
  • 五つの促進要因:偏見・差別,文化のバリア,政治的不安定,貧困,不均衡な富の配分
  • 五つの抑制要因:愛他的風土,高い教育程度,人権重視,バイオ・メディカル・サイエンスの進歩,経済的豊かさ

本書では,貧困がエイズ感染の拡大要因になっている状況(特に発展途上国)と,エイズ感染者の人権と感染防止対策のバランスについて書かれているのが印象に残りました。
後者について,

p.21
エイズ患者は, すでに述べたように,偏見と差別の対象になり,人間としての当然の権利を奪われかねない。偏見は,そもそもは人間の自己防衛メカニズムに由来している。すなわち,それがもたらす危害や悪影響から自らを守るために,そのものと自分との間に張るバリアのことなのである。偏見は二つの段階を経て完成する。まず最初に差別化の段階がある。自分たちとは異なり,かつ有害なるものとして,対象が分離される。次の段階で,その対象にバリアの網がかけられ,標識がつけられる。このようにして偏見ができあがるのである。

感染者ではないが,新型コロナウイルス感染の危険にさらされている医療従事者の子どもの保育拒否など,感染者(かもしれない)人への偏見や差別が起こっていることと同じだなと思いました。
しかし,単に感染者を遠ざけるだけではエイズ感染の広がりを抑えることはできないと書いておられます。

p.21
 人権に対する配慮を欠いた社会では,中世ヨーロッパの諸都市でとられた流行病の患者に対する社会的隔離政策が,形を変えて現代のエイズにも適用されかねない。たとえば,キューバが行なっp22ているエイズウイルス感染者に対する隔離措置や,かつてマレーシアが行おうとしたところに計画などがそれである。だがこれらの施策は,結局のところ,エイズの流行を抑えることには役立たないばかりか,患者や感染者を苦しめ,その結果として,社会は,エイズの流行を制御できなくなってしまうのである。
 ここでエイズウイルス感染者の人権を重視せよというとき,感染者もまた,他人にエイズウイルスを感染させない責任を負っていることも明白である。感染者の受けている医療やその職業生活が保障されなければならないし,プライバシーは守られなければならない。しかし,彼らが,過去に知らずに感染させてしまったかもしれない人々には,その危険の存在を警告する義務があるだろう。また,相手に十分に感染の危険を説明し,理解を得たうえでなければ,性行為など他人を感染させるリスクを犯してはならないのである。

p.22
 患者・感染者の責任と義務が果たされることによって,人権の重視はエイズの流行を抑えるメイン・ブレーキとなる。

上記は今回の新型コロナウイルスにはあてはまるところと,そうでないところを区別する必要がありますが,感染者がその病気以外に無用な苦痛や不利益をこうむるような状況を避けなければ,かえって感染が広がってしまうということを自覚しておかねばならないと思いました。

また,本書ではエイズの感染リスクを負っている医療従事者の人権と,エイズに感染した医療従事者に治療を受けることによりエイズ感染するかもしれない患者(一般市民たち)の知る権利とのバランスなど,感染症をめぐる「医療従事者と患者の相互不信」の問題について,エイズに感染した歯科医師(自らの感染は知った上で診療を続けた)と,彼に治療を受けエイズ感染した患者たちの事例をめぐり書かれていることは,考えさせられます。