IoTとは何か 技術革新から社会革新へ

TRONプロジェクトで有名な坂村健先生が,IoTについて,ご自身の関わっているプロジェクトを中心に述べた本です。
IoTについて,単に技術そのものができました,だけでは駄目で,その技術を実際に社会の中で活かすためには法律や制度を整備する必要があるし,日本人の考え方(スタイル,とでもいえそうな;本書では「哲学」という言葉で表現されていますが)から変えないと遅れをとってしまう,と繰り返し一生懸命書かれていたのが印象的でした。
実は,本書の要点は「おわりに」に集約されているように見えるので,「おわりに」を読んでから本文を読むといいかもです。
IoTについてよく知らないので,へえ~と思いながら結構沢山メモを取りました。その中から一部抜粋。

  • 道路交通網と対比させIoTを語る

pp.159-160
何度も述べてきたとおり,境界が明確なシステムでは,特定のシステム管理主体がその全体機能についてギャランティ(保証)するが,オープンシステムは―インターネットがその典型であるが,特定のシステム主体はなく,その全体についてギャランティは不可能で,個々の関係者のベストエフォートにより成り立たざるをえない。
道路交通網がその典型であるが,道路交通法自動車保険などさまざまな社会制度により,技術の不足を補って成り立っているというのも,オープンシステムの特徴である。
しかし,まさにベストエフォートで境界が不明確だからこそ,オープンなシステムは社会のイノベーションに大きな力を発揮する。インターネットの技術開発の時点で,現在のその応用のほとんどは予見もされていなかった。コンピューターをローカルネットワークを超えて繋ぐという目的は明確だったが,その応用に関しては研究用という程度で確定したものではなかった。
しかし,予見できない革新こそがイノベーションであるという定義からいって,プロトコルの工夫でWWWを始めとする予見できない応用を生むことができたというそのオープン性こそが,もっとも重要な,インターネットのアーキテクチャ的な優位性の本質であったと言っても過言ではないだろう。
日本の組織・個人は,一般に責任感が強く失敗を恐れる傾向が強い,いわばギャランティ志向である。ギャランティ志向は,ベストエフォートにより成り立たざるをえないオープンなシステムとは親和性が悪い。そのことがインターネットを始めとする,現在主流のオープンな情報システムを構築する上で,日本が後手に回る要因になっているように見受けられる。

  • オープンAPIの効用

pp.126-127
先にオープンデータを行うなら単なるPDFでなくAPIで行えと指摘した。それをさらに一歩すすめて,今までクローズだったコンピューター組み込み製品の制御APIをオープンにしましょうという運動が「オープンAPI」だ。考え方としてはオープンソース,オープンデータと同様,公開することでいろいろな人やシステムがAPIを通してコラボレーションできるようにすることだ。高度なパッケージソフトや組み込み製品の制御プログラム自体をオープンソースにするのは,技術の秘密の開示で抵抗が大きい。それよりは,うまくAPIを定めてそれを公開させた方が効果が高いし現実的だ。
機器やシステムのソースを公開してもそれを活用できる人の数は限られるし,多くのメーカーはソースを公開することでノウハウが流出することを恐れるだろう。

p.128
機器やシステムのAPIをメーカーが公開してくれれば,それを使えるアプリケーションは多くの人で開発できるし,それが配布されれば多くの人が恩恵に与れる。以前より有用性が増し,多くの人がその製品を買えばメーカーにとっても嬉しい。だからこそ,オープンソースよりもオープンAPIの方が組み込みの世界では影響力が大きいと思われる。

p.129
また,それこそオープンソースで多くの高度な機能モジュールが公開されており,ネットからそれらを集めて組み合わせるだけで,低コストかつ短時間で,簡単に高度な機能のアプリが開発できる。パソコン時代では会社組織で年単位かかっていたような開発を個人が数ヶ月で完了でき,それを流通させるのもネットで,ほとんどコストなく一瞬で行えるのが現代なのだ。

p.130
オープンAPIにすると障碍者対応も容易になる。肢体不自由の方が声だけで家電など各種の組込み機器を制御するアプリも,ボランティアで開発できるようになる。

p.130
自分の属性に最適化したユーザインタフェースを作ってほしいという希望は確かにある。
しかし,メーカーにそういうことを期待しても,世界でたったひとりしか使わないユーザインタフェースを実装するのは「さすがに勘弁してください」となる。
そこで,制御したい組み込み機器のAPIが公開されていれば,ボランティアがその人のためのユーザインタフェースを作れるし,もしも最愛の人が障碍者になってしまったときは,家族が勉強してプログラムを作るかもしれない。

  • 東日本大震災でホンダがカーナビデータを吸い上げて集計し,Googleと協力してマップに反映した事例から

p.185-186 (プライバシーの問題が,について)
だが個人情報を受けた(受け取ってしまった)側が,状況に応じて個人の利益に反しないように適切に扱う「事業者側の義務」としてプライバシーを再定義すれば,このケースは利用した「意図の正当性」の問題となり,震災時ということを考えれば十分認められる範囲となる。
ここで重要なのは,「意図の正当性」の公的な事後評価の制度設計で,海事裁判所のような専門的な一種の「情報利用裁判所」といった機関を設けることが必要になるかもしれない。そこで審査し,意図が認めがたいということになれば事業者には罰則―事後的な抑止力によりプライバシーの濫用を防ぐという制度設計である。

pp.186-187
ネットワーク時代のパブリックの概念として,状況に応じて個人が公共のために個人情報を積極的に出すといった社会的責任の確立が必要だ。このような公共概念はまさに,受けた(受け取ってしまった)側の適切な利用義務というプライバシーの概念と対になって初めて成立するのである。

他にも色々,ああそうか~と思うとこいっぱいありました。
この手の本は鮮度が重要なので,是非すぐにお読みください。