NHK気象・災害ハンドブック/気象予報と防災―予報官の道/予測の科学はどう変わる?人工知能と地震・噴火・気象現象

待ち合わせまでの時間つぶしに,市立図書館にふらっと寄ったところ,災害・防災をテーマとした特集で本が集められているコーナーがあって,目についたものをつい3冊まとめて借り出してしまいました。

気象と災害に関する基本的な知識をコンパクトにまとめてあり,さらには「お天気」関係の用語(単語の使い方)についてNHKニュースでどういう風に使うのかといったことも補足されており,日頃の生活で手元においてときどき参照したいような一冊です。
2005年の出版で,もう10年以上経っているので,新しい版がそろそろ出て欲しいなあ。

気象予報と防災―予報官の道 (中公新書)

気象予報と防災―予報官の道 (中公新書)

「第1章 天気のしくみ」は,「天気」なるものが発生する地球のメカニズム的なことが説明されていて,物理学とかの知識がない自分には難しかったのですが,その他のパートは,気象庁のなかの人≒予報官としての経験から,「天気予報」ってどんなもの,どんなプロセスで作られているのか,などなどが書かれていて面白かったです。
また,本書のサブタイトルには「予報官の道」とありますが,予報官になるにはどうしたらいいのか,というよりも「予報官」つまり予報官としていかにあるべきかということも書かれていて,著者の真摯な人柄がうかがえるのは読み物としても大変面白かったです。

pp.49-50
 天気予報の原理は,「現在の状態を知り,それに何らかの法則を適用して将来の状態を推し量る」ことである,と前章で繰り返し述べた。現在の状態を知ることは天気予報の第一歩である。いまどうなっているのか,現在晴れて(くもって,降って)いるのはなぜなのか,それがわからなければ,予測の見通しは立たない。ところが,それを知るのは案外むずかしいのである。我々はいまどういう状態に置かれているのか,過去から未来への変遷のなかで現在がどういう段階にあるのかを正しく理解することは,鋭い洞察力なしにはなしえない。天気予報において,現在の状態を正しく知ることができなければ,どんなに優れた予測法をもっていても高精度の結果は期待できない。

最後の文章,柳田邦男の『空白の天気図』を思い出しました。
戦後混乱期で観測データの欠損傾向,さらには巨大台風で観測データ取得不能状態で現在状態が皆目分からなければ,予報しようにも手も足も出ない。

p.53
 結局,予報官にとって,「いまどうなっているか」は決して自明ではない。今後を予測するのと同じくらい,いやそれ以上に,現在を知ることは重要であり,むずかしい。
 考えてみると,現在を知るのが容易でないのは気象に限らないようにも思える。世の中のあらゆること,人生のすべてについて,「いまどこにいるのか」を知るのは容易でない。時間がたってから振り返ると,ああ,あのときはこうだったのか,こうすればよかったのかと気づくのだが,現在進行形のその時点では容易にわからないものである。

人工知能ってどんなもの?という入門として読めるだけでなく,地震・噴火・気象現象の予測に人工知能を活用できるか,活用するとすればどういう方向性があるのか,といったことを平易に解説されている本でした。面白かったです。

p.2
 経験的な予測と演繹的な予測は実際には明確に分けられないことも少なくありませんが,方法や内容には明確な違いがあります。比較的簡単にできるのは経験的な予測ですが,予測内容は定性的であり,主観的になりがちです。それに対して,演繹的な予測は数理的な解析やコンピュータによる計算が必要であり,基盤となる理論ばかりでなく,計算に用いるプログラムや入力するデータなどの準備も必要です。しかし,予測結果は定量的であり,客観的でもあります。
 2つの予測方法の大きな違いは予測の及ぶ範囲です。経験的な予測は,予測する人の経験や知識などに限定されて,想像力が及ぶ範囲を超えられません。それに対して,演繹的な予測は人間の想像できる範囲とは無関係に推論を進め,時には予想外の真実を導きます。この違いから,基盤となる理論が整っていれば,演繹的な予測の方が優れており強力です。

p.3
 科学の進歩につれて,経験的な予測は演繹的な予測に順次置き換えられてきました。しかし,実際の自然現象の多くは複雑で多様性に富み,演繹の基礎は簡単には築けません。たとえば,地震予知や噴火予知は相変わらず経験的な予測の枠から出られません。ところが,最近,予測に人工知能(AI,artificial intelligenceの略)が参入してきました。人工知能による予測は,データの学習に基づく経験的な予測ですが,学習できるデータは膨大であり,予測内容は自動的に得られて客観的です。

人工知能の入門書”みたいなものは,近年多数出版されていると思うのですが,こういう感じで説かれているのが,自分的にはすごくぴったりする本でした。