企業不正の研究―リスクマネジメントがなぜ機能しないのか?

かんぽ生命保険の不正販売が問題になったのは記憶に新しいところですが、(かんぽ生命保険を販売している)日本郵便ではたびたび不祥事が起こっているようです。最近でもこんなことが。
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こういった企業不祥事が起こるたびに、対策としてコンプライアンスの徹底(要するにこれからはきちんとやります!宣言)とかいわれますが、法令遵守決まりをきちんと守ってやりましょう頑張りましょうと、かけ声だけでは空虚だ、不祥事(不正行為)の起こる背景、例えば組織風土、そしてそういった”風土”が醸成される組織の問題をなんとかしなければ本質的な解決にはならないのでは?とモヤモヤ感じます。
それどころか、不正販売してごめんなさい!これからは心を入れ替えて頑張ります!と喧伝すること自体が、さらなるヤバさをもたらす可能性もあります。例えば:
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 現在、日本郵政グループが掲げている「すべてを、お客さまのために」というスローガンを叫べば、叫ぶほど、現場から新たな不正が報告されてしまうかもしれない。つまり、莫大な予算と、人的リソースを割いたこの謝罪キャンペーンが昨年から止まらない「不祥事」の新たなトリガーというか、呼び水になってしまう可能性がかなり高いのだ。

ご存じのように、日本郵政グループでは業績悪化から郵便局員を1万人削減することが検討されている。一方、2万4000という郵便局ネットワークは維持することを増田寛也社長は明言している。
 「人を減らして事業所数はそのまま、でもITや業務効率化で乗り切ります!」というのは、典型的なブラック企業のマネジメントスタイルだ。当然、現場で働く人たちには嫌な予感しかない。

本書を読むと、日本郵政グループ、(上記の記事引用にあるように)こりゃダメだ・・・(本質的な解決どころか、より状況を悪くしている)ということが、まじまじと実感されるようになります。
本書では、企業不正の事例を8件挙げて解説し、さまざまな事件にみられる企業不正の原因を6つにまとめています。

pp.13-14
①経営者の圧力と監査役の機能不全 ②内部統制の抜け穴 ③3つのディフェンスラインの不備 ④内部通報制度の不備と限界 ⑤固定的な人事 ⑥技術力不足

ここまでは、今まで自分が読んできた類書と同じようですが、本書が他と大きく違うなと感じたのは、それぞれの事例特有の分析だけでなく、「3つのディフェンスライン」といった枠組みで、すべての事例を一貫して分析している点です。
それぞれ内容の異なる事例を分析し、問題の焦点をあぶり出すのに有用なフレームワークを提供してくれます。
その3つのディフェンスラインとは、それぞれ:

p.15 第1のディフェンスライン
  第1のディフェンスラインは、現場レベルでのリスクマネジメントを意味します。たとえば、工事現場などで安全確認を励行するのが第1のディフェンスラインです。社内規定なども第1のディフェンスラインに含まれるものが多いかと思います。

pp.15-16 第2のディフェンスライン
第2のディフェンスラインは現場と独立な立場でリスクマネジメントを行うことです。たとえば、工場で作られた商品の品質や性能は検査部門で調べますが、この検査部門が第2のディフェンスラインになります。第1か第2かは、業務リスクをとっているかどうかで分かれます。検査部門のように業務リスクをとっていない部署は第2のディフェンスラインです。

p.16 第3のディフェンスライン
第3のディフェンスラインは、内部監査の仕事です。内部監査部は社長や取締役会直属の組織になっています。第2と第3の違いは、業務を行う執行部門にあるか否かです。

現場レベルの第1ディフェンスラインが破られても、現場を牽制(監督)する他部署=第2ディフェンスラインがあり、それが破られても(組織的に)その上の第3ディフェンスラインがあるよ(あるはずだ)ということです。
第1・第2・第3の3層が不完全である、あるいは見かけ上あるように見えても機能不全を起こしているというのが、企業不正につながる背景、ということと読みました。
本書では、この他にも企業内の組織と構造とそれらが十分に機能しているかどうかに着目するためのポイントが説かれています。
「日本リスクマネジメント学会の優秀著作賞を受賞」だそうで、いい本でした。