企業不正の調査報告書を読む―ESGの時代に生き残るガバナンスとリスクマネジメント

先の記事の本と
lionus.hatenablog.jp
同じ著者の本を、引き続いて読みました。

企業不正(不祥事)が発覚して問題になると、いわゆる第三者委員会なるものが組織され、その問題の調査をし調査結果を報告書にまとめて出すということが一般的になっています。
そんな調査報告書を色々読んで分析しましたという本です。
前著よりも多くのさまざまな事件が分析されており、読み応えがありました。そして、さらに筆致がビシバシ鋭くなっていて、読みながら苦笑したり、うんうんそうだそうだそうなんだよ、と思わずうなづくところが多々ありました。
本書では、前著で示された「3つのディフェンスライン(3層ディフェンスラインモデル)」に加えて、

  • 不正構造仮説
  • 調査発注者免責の法則

といった2つの考え方が示されています。
1つ目の「不正構造仮説」とは:

p.2
 まず次の2点を企業不正の原因と考え、不正会計や品質不正を同じ構造でとらえます。これを「不正構造仮説」と呼びます。
・経営から現場への無理な圧力・指示に対して、現場側の組織防衛によって不正が起きる。
・内部統制の不備によって不正が実行可能になる。

2つ目の「調査発注者免責の法則」(なかなか皮肉が効いています)とは:

p.6
 不祥事の調査は企業側の意思と費用負担で行われるので、当局や検察の調査・捜査とはまったく違います。経営者は会社のお金を使って自分の首を絞めるような調査を頼みません。調査発注者の責任が調査されないことを「調査発注者免責の法則」と呼ぶことにします。

p.7
 調査発注者免責の法則は、調査の限界を示します。したがって経営責任まで調査していれば優れた報告書と考えるのは早計です。調査の発注者側に不利なところまで調査したものが優れた報告書といえます。このような報告書は経営者の潔さを感じさせ、信頼回復を期待したくなります。
 また再発防止策が現場中心で、経営者に厳しい再発防止策が提言されないケースもあります。これも調査発注者免責の法則で説明できます。第1部の事例をこの視点で読むと優れた報告書を見分けることができます。

さらに、「調査発注者免責の法則」が効いてしまっていて、問題の本質に十分に迫っていない(あるいは形ばかりの)調査報告書が出されて終わってしまうことを「経済公害」と呼び、厳しい指摘をしています。

その厳しい視点が特に明らかになっているのが、「第12章 調査報告書への監視と盲点」で、「日弁連の第三者委員会ガイドライン」に関して次のように書いておられます。

p.359
 裁判では勝ち負けによって弁護士報酬が変わりますが、調査ビジネスは出来の悪い報告書でも納品できる点で無リスクです。

p.359
顧問弁護士の仕事先の企業で不祥事が起きれば、別の弁護士に調査の仕事が来るので、弁護士業界にとって企業不祥事はビジネスチャンスです。
 この状況への自省感がガイドライン策定につながっているようですが、企業不祥事の最大の被害者は顧客と取引先や株主です。少なくとも機関投資家ガイドラインの策定に関わっていないと、資本市場を軽視したものに陥ります。

p.361
 日本監査役協会は、監査役が職責を果たせるように「新任監査役ガイド」を制定しています。これには改定のプロセスが説明され、改定に関わった組織や委員名・所属などが記されています。日弁連ガイドラインは公正中立な調査の指針を示している以上、監査役ガイド以上の公正性が求められます。

弁護士の”足元”を見透かすような、なかなか厳しい書かれ方です。