「顔」の進化―あなたの顔はどこからきたのか

はじめに口ありき
pp.19-20
 そもそも、植物や菌類には口がないが動物には口があるのは、植物は光合成により自分で影響をつくり出し、菌類は菌糸で外部の栄養をこっそりと吸収できるが、動物は自分では影響をつくれず、菌糸もないからにほかならない。そのため、ほかの生物体を暴力的に体内に取り込んで栄養とする必要があり、その取り込む部分として口ができたのだ。つまり、「口を持つこと」が動物の本性であり、それを活用するための選択肢の一つとして「移動する」という属性を身につけたといえよう

p.20
 消化管の入り口である咀嚼器としての口が、身体の前端に形成されれば、そこが外界や食物に最初に遭遇する場所となり、その周辺に視覚、味覚、聴覚などの感覚器が集中するのは当然のことだったろう(尾や尻に感覚器が集中してもあまり役に立たないはずだ)。このようにして「顔らしさ」の条件が整ったのだろう。そして、そのすぐ近くに、それらを統御する脳も発達した。また、顔のなかでもとくに目立つ眼と口は、顔が顔としてほかの個体から認識される際にも重要になった。

前半は生物学っぽい話が続きますが、後半はヒトの顔の話になっていき、顔の話なんだけれど初期猿人から新人ホモ・サピエンスへの進化、そして日本人の起源についての話になっていき、読み進めるごとに面白くなっていく本でした。

色々面白いポイントはあるのですが、
こういうスケール感覚をもって考えるのはいいね、と印象的だったところです。長くなりますが抜き出します。

大きさの影響は深刻
pp.65-67
 そもそも、動物の身体の構造は、大きさの影響を強く受けている(スケール効果)。かりに、ある動物が同じ形のままで2倍の大きさになったら、体表面積は4倍になり、体重は8倍になる。このとき、四肢の骨の断面積は4倍にしかならないので、8倍になった体重を支えるのは難しい。そこで、身体を支持して移動するために必要な強度を得るには、まず骨の断面積を8倍にする必要がある。しかし、そうすると骨格全体が重くなりすぎるので、実際には6倍程度で妥協せざるをえない。筋力も筋肉の断面積に比例するので、骨と同じ4倍にしかならないが、運動範囲を制限したり、四肢の筋肉構造の多くを羽状筋にするなど工夫したりして(図1-21)、6倍程度に高めている。だから、大型動物は絶対的には頑丈な骨格と強力な筋肉を持つが、じつは相対的には見かけ倒しで非力なのである。
 栄養を吸収しエネルギーを発生するための消化器官や呼吸器官も重量が8倍になるが、実際に働く粘膜の面積は4倍にしかならない。つまり、エネルギーは4倍しか生産できない。しかし、体表から失われる熱は体表面に比例し4倍なので、体重のわりには、熱の消費は少ない。一方、体を動かす筋肉のエネルギー消費は体重に比例するので、8倍も必要になる。しかし、エネルギー生産は4倍なので、大型動物は小型動物のように活発には行動できない。
 ところが、感覚器および中枢神経系は情報を扱うので、体重に比例して大きくなる必要はない。つまり、大きな動物ほど、身体のわりに感覚器が小さいという傾向がある。