平成の経営

少し前に読んだ、
lionus.hatenablog.jp
と同じ伊丹先生によるご本です。
『コロナショック…』を読んだ時には「ちょっと日本買いかぶり気味じゃない?と思う面もありましたが、」と書いていましたが、
今回『平成の経営』で日本企業の特徴と、そこから生み出される独特な強みについてさまざまに論じられているのを読むと、ああこの本で主張されていたことの延長線上にある話なのね、と改めて納得できるところがありました。
いくつも「なるほど」「たしかに」と思いながら読めるところがあったのですが、中でも失業率、(従業員)一人当たり人件費、労働生産性労働分配率(企業が生み出す付加価値の中から人件費として従業員に分配される割合)の推移(バブル崩壊後~リーマンショック東日本大震災~近年)の分析から、

p.66
つまりは、一人当たり賃金を下げて、しかし雇用は確保するといういわばワークシェアリングを国全体でやっていた

p.68
雇用を拡大しながらも一人当たり人件費を下落させ、人件費総額を微増に抑えることで利益を捻出する、それを資金源にある程度の投資も行なうという形で自己防衛を行なった

と書いています。
バブル崩壊リーマンショックといった危機時にも雇用は極力守るが、給与の支払いを少なくし(残業させないなど労働時間を短くする等で)、なんとか乗り切ろうとするという感じです。
また、(従業員への)労働分配率については危機の時にかえって上がるということも示していて、そこから、景気が悪くなって儲かっていなくても給料をあまり下げないし、ましてや解雇するなんてこともなかなかしないということの表われだと書いてもおられます。

こういう話は、以前読んだ白川元日銀総裁のご本でも読んだな~と思いだしましたが、
lionus.hatenablog.jp
そこでは

名目賃金には下方硬直性が存在すると言われているが,日本の賃金データを検証すると,90年代末頃から硬直性は観察されなくなっている。不況期の日本で失業率の上昇が小幅にとどまった理由は,前述のようにコア労働者が賃金の抑制に応じ,企業経営者が雇用確保を優先した結果である。ただし,欧米諸国と異なり失業率の大幅な上昇は回避できたが,その代償として,賃金下落に伴う物価の緩やかな下落に直面することになった。

とあり、経営者が雇用確保と引き換えに賃金の抑制を労働者に求めた結果、失業率が上がらなかった代わりに賃金が下落した(そして物価も下落した)という1対1の関係でしか書かれていなくて、
危機の時にかえって従業員への利益分配率が上がる(=危機の時も従業員をできるだけ守る?)という視点は入っていなかったので、日本的経営とはどんなものかという問いがベースにある伊丹先生とは角度が違うなと感じました。

本書を読むと、平成30年間の日本企業をめぐるあれこれについて振り返ることができるだけでなく、日本的経営ってそれなりの合理性をもっていた(いる)わけで、無闇矢鱈に”今までのやり方”をかなぐり捨てることもないんじゃない?と感じました。