英語独習法

発売後間もなくSNSで話題になり、また英語のよくできる友人も読書ブログで話題にしていたことから、読んでみました。
スゴ本ですけれども、結局、読んでほうほう、と思っても実行しない人が多そうな気がしました。
それは著者先生が本書で繰り返し言っていることにまさしく当てはまってしまうようで、何とも皮肉なような気がするのですが・・・
例えば:

p.18
 しかし、先に一言だけお伝えしておこう。少し前に人の記憶は脆弱だと述べた。特に、すぐ理解できて、斜めに読んで「わかってしまう」と、そのときにはどんなに感銘を受けても記憶が定着せず、すぐ忘れてしまう。理解に努力を要するものほど、情報の処理は深くなり、忘れにくくなるのである。(このことについては第8章で詳しく述べる。)

p.21
前置詞onの意味をいくら上手に解説してもらって、納得しても、実際に的確に、間違いなく使えることにはすぐに結びつかない。「知識がある」ことと「使える」ことは別なのである。

そうなんだよ。
どこかで誰かが、ビジネス系自己啓発本を「キャリアポルノ」と呼び、読んでも無駄!と斬っていましたが、最近はやりの何とか大学等のYouTube動画とか、わかりやすく解説してもらって分かった気になる、賢くなった気になる「勉強ポルノ」かもしれないなと連想してしまいました。
こんなことを書いている自分も、じゃあこの本で説かれている通り、英語独習を始めるのか?といったらどうだろうというのが本音です。
でもねーでもねー本書はそれだけにとどまらない衝撃的な本でした。
かつて自分も、(入学した)大学を志望したときは、どうやったら効果的に学習できるか(学習させられるか)知っている英語教員になりたいと思って、心理学と英語科教職科目の二股をかけようとしたので。まあ、中高の英語教員免許はとりましたが、英語と英語教育については有名無実、吹きすさぶ砂の底に埋もれ忘れられた遺跡になってしまいました。もう今や英語教育には興味はありませんが、そういえばあんなことを考えていたのだよな~と思い出しました。

p.154
教科書で習った定型文ではない表現のしかたで、自分のもっている語彙の範囲で基本的な単語を駆使して英語の文を作る練習をすることが大事である。単語が出てこないから、英語がうまく言えない、という人が多いと思うが、発想を転換して、知っている単語で、なんとか言いたいことを表現する工夫が大事なのだ。そのためには、日本語を単語レベルで置き換えるのではなく、言いたいこと全体を英語の発想で英語に置き換える習慣をつけていくことが重要だ。

英語教育の話になると、英語脳とか英語で考えるようにならないと、という人が出てくるけれども、どうやってそういうことができるようになるのか、結局のところ、何らかの理論に基づいた具体化されたノウハウが英語教授法の専門家からは示されていないような気がします(ともかく読め!聴け!しゃべれ!のイケイケゴリゴリな方法しか示していない気が;自分の知見が狭いだけかもしれないです・・・すみません)。著者は、認知心理学をベースに自分なりに編み出した?方法を、スキームという概念をキーワードにして、ある程度のノウハウに落とし込んで示しているところが、本書のすぐれている点だと思います。
が、同時に、認知心理学を専門とする著者が自分なりに実践している内容を紹介している、個人的実践(N=1)のお話であり、英語教授法研究の話ではないよねとも思いました。
まあ、(英語教授法を専門としない)認知心理学者が英語独習法について語っているのだとしっかり認識して読めば、全然問題のない、非常に興味深い本であることは確かです。
これこそ、有用な応用心理学の書だね!とアツく思いました。