氏神さまと鎮守さま 神社の民俗史

氏神さまと鎮守さま 神社の民俗史 (講談社選書メチエ)

氏神さまと鎮守さま 神社の民俗史 (講談社選書メチエ)

神社について,氏神とか産土神とか,鎮守とか色々な呼び方をすることがありますが,それらの呼称の違いについて普段深く考えずに使っているような気がします。
それらの呼称の違いにはそれぞれの神社が辿ってきた歴史が背景にありそうだ,というのが本書を読んで分かったような気がしました。

  • 氏神は, Aタイプ「氏族の祖神」,Bタイプ「氏族がその本貫地で祭る神」,Cタイプ「氏族の守り神」に大別される。Bタイプは産土の神に共通する。
  • 鎮守の神とは,文字通り反乱を鎮圧する守護神という位置づけ。国家鎮護とか。

本書では,近畿地方のいくつかの神社事例を通じて,荘園領主が祭る荘園鎮守社が,中世には在地武士の氏神となり,近世には村落住民の氏神になるという展開や,農村での氏神について,在地武士や近世村民が順番に祭祀を担当する宮座の形成過程などが示されています。
一方,中国地方など荘園鎮守社が設けられなかったところについては,安芸国を例にして戦国武将が領内の農民と呼応して武運長久&五穀豊穣&庄民快楽といった現世利益を願うかたちの神社が創建され,近世社会では村民が氏子として祭る氏神となっていった過程も詳しく示されています。
後者は,毛利氏が神社創建とセットで勢力拡大していった様が結構詳細に記されていて,関心ある人には面白いのではないでしょうか。
本書を読むと,神社とその祭祀のされ方は,その神社のある地域が辿ってきた歴史の反映がみられるのではないかと,神社を見る目がまた少し変わってきそうです。
本書の「おわりに」の「ミックスジュースではなくミックスサラダ」が,神社信仰にとどまらず日本文化の特性を表しているようで面白かったので,少々長いですが引用しておきます。

pp.244-245
現在の神社祭祀の中に,古代の素朴な自然信仰的なものだけでなく,陰陽五行的な信仰や呪術の要素が混在していたり,仏教的な要素,また中世的な複雑霊妙な信仰の要素が混在している,その理由は,このような日本人の信仰の歴史と伝承の過程におけるさまざまな信仰要素の混入とその醸成によるのである。
しかし,重要なのは,そのような複雑な混淆的な信仰伝承ではあっても,神祇信仰,陰陽五行信仰,仏教信仰,中世的な呪的霊異神仏信仰,という基本的な四者は,決して混合融合してしまってもとのかたちや中味をなくしてしまっているわけではない,ということである。たとええていえば,あくまでもミックスサラダの状態であり,決してミックスジュースにはなっていないのである。四者それぞれがその基本的な要素をしっかりと保持しながらたがいに混淆しているのであり,そうした状態こそが日本の神祇信仰の特徴であり,神社祭祀の特徴であるといってよい。
そして,長い歴史の流れの中で,時代ごとに流行したさまざまな霊験や現世利益を求める信仰や呪法が取り入れられていながらも,その一方では,自然界の森や山や岩や川やそれらをつつむ森林に清新な神々の存在を感じ,それを信じて敬い拝んできたという基本だけは守り伝えられている,というのが日本の神社である。神社とは,祓え清めの場であり,清新性を基本とする,大自然の神の祭りの場なのである。