医師の不足と過剰:医療格差を医師の数から考える

医師の不足と過剰: 医療格差を医師の数から考える

医師の不足と過剰: 医療格差を医師の数から考える

医療崩壊」とかへき地に医師が足りないとか,医師の人手不足がしばしばいわれているように感じますし,また人手不足→売り手市場?そもそも確実にご飯が食べられる資格ということで,医学部は高い人気と偏差値になっています。
でも,医師は本当に不足しているのか?今後日本は少子高齢化で人口が減少していくのだから必要医師数は少なくなり,医師余りにはならないのか?という疑問に,あるていどまとまった答えを提示している本です。
この問題について「その全体像を解説したテキストはほとんどない(p.211)」として,「そこで,この大きな問題について,自分でまとまったものを書いてみようと考えた。そして書き上げた(p.212)」ということです。
医師の不足と過剰について,同じようにその仕事をするのに国家ライセンスが必要な資格(弁護士,歯科医師公認会計士)の養成ドタバタ顛末・・・つまり資格保持者が足らないから増やしちゃおう!と漫然と養成校を増やしたり,試験合格者を増やしたら過剰になり貧困問題や進路問題が生じ社会問題化している例を挙げながら,論じておられます。
それにしても司法制度改革のひとつととしての法科大学院問題(法曹養成問題)についての記述は,非常に厳しい限りで,医師養成はこの轍を踏まないようにしなければという著者の気持ちがひしひしと伝わってきます。
業務独占でなく名称独占だけど国家試験資格の公認心理師のこれからについても,ヒントになる内容だったかもしれません。

pp.214-215
 このように国家資格を必要とするさまざまな職種において,周到な将来計画もなく,漫然と養成数の増加を許してしまった場合,いつも同じような過剰問題を引き起こしてきた。そして,実際に過剰問題によって,数多くの若い有能な人材が失意のうちに生きていくことになった。少子高齢社会に直面するわが国には,多くの人材を浪費するような余裕はない。貴重な人材を育てていく努力を怠れば,わが国の将来もそれだけ制約されたものとなる。弁護士,公認会計士歯科医師などの養成政策の変遷を見ると,このことを深く憂えざるを得ないのである。