ルポ 特殊詐欺

いわゆる「オレオレ詐欺」に代表される特殊詐欺について、犯人側の視点から実際の犯行のあれこれについて書かれた本です。
特殊詐欺については、高齢者を対象にした啓発活動が続けられていますが、本書ではSNS等で気軽にリクルートされ、犯罪の末端で”使い捨て”られる若者への啓発こそ必要であると強く主張しているのが非常に印象に残りました。
手っ取り早く稼げる”グレーバイト”=現金の受け取り役(受け子)やATMからの引き出し訳(出し子)等を入り口に、捕まったら実刑を食らうどころではなく強盗致傷という凶悪犯罪に手を染めてしまうケースがあることを知りました。
今まで、多額の現金をだまし取られる高齢者にもっぱら目がいっていて、犯人側のこと(犯罪の末端の末路)まで意識していませんでした。

p.224
 本書でも詳細に描いたところだが、「詐欺」とはいえ、その中には、やがて強盗を指示されて住宅に押し入り、家人にけがを負わせたり、追い詰められて殺人未遂事件を起こしたりするケースさえある。第三章では、被害金を持ち逃げして、追い詰められ強盗致傷事件へと発展したケースを紹介した。取材するほどに感じるのは、その悪質さと、果てしない害悪の拡散に特殊詐欺の本質があるという点だ。
 加害者として関与するその多くは10代~20代。安直にツイッターで「闇バイト」「高収入」などと検索して犯罪者側に引き込まれるのが大半で、その入り口でさえ騙し文句で塗りこめられている。「簡単にすぐ現金が手に入ります」「1日3万円保証。10万円も可能」といった具合だ。現金欲しさの誘惑に駆られてダイレクトメッセージを送ってみると……。この先は本書で繰り返し書いてきた。

p.225
 その意味で、高齢者へ「だまされないで」と啓発するのと同じように、むしろそれ以上に若年層への啓発が欠かせない。捜査関係者は「徹底的に末端を摘発する」と憤怒を込めて言う。逮捕されるのはいつも末端の若者たちだ。初犯でも悪質な場合は実刑判決を受ける。安易な気持ちで関与することの危険性を若者たちに伝える取り組みが強く求められる。「薬物に手を出すな!」と同様に、その危険性を教える必要がある。
 スマホを手にし始める中高生は、特殊詐欺で末端のリクルートに利用されているツイッターへも容易にアクセスできる年齢となる。SNSの適正な使い方とともに、特殊詐欺の入り口の気軽さと恐ろしさを啓発してしかるべきである。特殊詐欺の恐ろしさをひたすらしつこく書いた本書が、多くの中高生に読まれることを願ってやまない。