動物セラピーの政策学 少年院・学校・事業所等へのセラピードッグ導入の事例から

動物セラピーの政策学

動物セラピーの政策学

著者が同志社大学に提出した博士論文をもとに出版された本のようです。
本のタイトルは「動物セラピー」となっていますが、正確には「動物介在プログラム」であり、10件の事例についての訪問しての観察調査、聞き取り調査、アンケート調査をもとにまとめられたご研究でした。
なお、「動物」でも「犬」のみに特化してまとめておられ、猫その他の動物についての知見はありません。
著者の方はもともと塾講師など子どもに接する活動をされていたようで、そのためか教育の現場に動物が”居る”ことによる効用についての考察が比較的しっかりしているように拝見しました。

p.194 さらに、重要点となる部分について考えたい。筆者が考える重要部分とは「介在」という言葉である。つまり「Assisted」である。

p.195
「介在」とは、「間に挟まって存在すること」の意味がある。この「介在」とは、「加わる・仲介する」を意味する。つまり、動物があえて自分の体をもって援助するのではなく、社会生成の現場に共に加わることに意義がある。動物は、クッションや潤滑油、そして、磁石やマグネットの役割をはたし空間に存在すること、人と人との間に入り緩和し互いを引きつける働きを促進する意味合いが強い。

p.195
 よって、筆者が述べる「動物介在教育」とは、「ケアされる存在のペットが、教育の現場、つまり社会生成の現場に共に参加し、時間と空間を共有する中で互いに結びつくことで学びの融和をする」ということになる。

著者によるまとめ:

p.297
 最後に、動物介在プログラムの組織的機能を要約すると、ヒューマン・サービス分野への犬の注意深い導入は、人と人との距離を縮め、互いの気持ちを共有する手伝いをし、そして、人と人との結びつきを強化する。人と人の距離を縮め、実にさり気なく構成員の樹心を通わせることを通じて犬自身も適切な居場所を手に入れることになる。また、その力が、組織の意欲や個人の意欲をも育て組織を活性させることも多いが、その力を発揮するためには犬を取り扱うコーチ(又はコーディネータ)の事前の環境整備が欠かせない。組織に犬が属することで、今後さまざまな組織に少なからぬ利益をもたらしてくれるものと筆者は確信している。

広島平和記念資料館は問いかける

2013年4月から、2019年3月まで広島平和記念資料館の館長をなさっていた方が、広島平和記念資料館のあゆみとその位置づけについて、記録的にまとめられた本です。
多数の資料をもとに、歴史的経緯についてまとめてあるのも大きな意義がありますが、ご自身の見解・思いも交えながら書かれているのが素晴らしく、非常な力作であると拝見しました。

広島平和記念資料館は今まで三度、大規模なリニューアルを行ってきたそうで、私も2019年9月に、三度目のリニューアル直後に見学に行きました。
lionus.hatenablog.jp
その際、大きくは2つ印象的だったことがあって、ひとつは、デジタルでマルチメディアな展示が充実していること、もうひとつは

以前あった原爆投下直後のリアルサイズジオラマ(?)と被爆した人を模した”被爆人形”的な展示に代わり,被害者の遺品と遺影,その人のプロフィールを主体とした展示になったそうです。
以前見学したのはもう記憶にないくらい昔なので,以前と何が違うのかはっきり分かりませんが,今回見学したものは,等身大の被爆者が伝わってくるような,恐怖よりも悲しみに訴えてくるような,被爆者への共感を重視したような内容と拝見しました。

と、当時書いたように、「被爆者への共感を重視したような内容」であったことです。
本書を読んで、この2つ目の点について、やはり展示する側も強く意図していたこと、そしてその背景についてよく理解できたような気がします。

少々長くなりますが、本書からの抜き書きを貼り付けて終わります。

pp.209-209
 そういえば、館長就任後間もなくして、ある古参職員から聞かされた言葉を思い出します。
 「資料館は、博物館ではない。博物館であってはいけない。そう言われたことがある」
 その時はあまり気に留めなかったのですが、右の展示に関する評価などを聞くと、通常の博物館、事実に即して学術研究の成果を淡々と展示している博物館、あるいわ貴重な美術品や考古資料を、恭しく、丁寧に来館者の観覧に提供している博物館とは、いささか趣の異なった期待を持たれていることは間違いないようです。
 その端的な例が、すでに何度か触れてきた「蝋人形」*1なのでしょうか。
 「とにかく原爆が広島にもたらした悲惨な、凄惨な光景をひと目で分かるように展示せよ」
 これが、「蝋人形」制作の直接的動機なのでしょう。
 また、長年その「蝋人形」が館内に展示され続けてきたことも、来館者のそのような期待にある意味応えていたと言えるのかもしれません。確かに、「被爆の実相」を、「ヒロシマの惨禍」を、お伝えするのが資料館設置の目的なのですから、そうした期待に応える義務もあるのかもしれません。
 他方、いわゆる博物館のように「お宝」を陳列して来館者に見ていただくだけではなく、「核兵器廃絶のメッセージを発信し続けるべし」といった期待も感じてしまうことがありました。

pp.209-210
 おそらく以上の二つの期待が、資料館に対して「博物館であってはいけない、あるべきではない」と迫っているのでしょう。ある意味では、至極もっともな期待かもしれません。

pp.231-232
 第三次大規模展示更新は、「その日」を前に、来館者に「一人ひとりの死者との対話」の場を用意し、死者の無念に耳を傾ける機会を設けたと言っては、不遜だと言われるでしょうか。
 つまるところ、資料館は「博物館」であるかどうか以前に、「ヒロシマの死者を記憶するための施設」であるのかも知れません。いや、既に、ある人にとっては、そうだったのではないでしょうか。館長を退いた後、様々な議論を振り返ってそう思わざるを得ないのです。
 死者の無念を語る人たち亡き後、資料館は、収集・保存、展示、調査・研究という「博物館」の機能を発揮しながら、「もの」をして語らしめ、そして、その「もの」とともに記録された死者の記憶を伝え続け、「死者との対話」を、「死者の無念」を聞くことを、可能にする場を提供し続ける。
 迫りつつある被爆者不在のヒロシマを前に、今改めて資料館の使命を確認し続ける必要があるのではないでしょうか。

*1:蝋人形=以前展示されていた投下直後の被害者を模した人形。例えば:https://mainichi.jp/articles/20170421/k00/00m/040/150000c

十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕

十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕

十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕

10件の山岳遭難事故を取り上げ、その経過と事故原因について、事故当時の報告書や手記等をもとにしてまとめられています。
読んでいると繰り返し出てくるのが、なぜあのとき、あのポイントで引き返せなかったのかというような指摘です。
困難な状況でもあきらめずに頑張るのは悪いことではないし、結果がよければそれで何よりなのですが、山というシビアな場所では状況を見極めて”あきらめる”ことも大事なのだと感じました。

「民都」大阪対「帝都」東京

「民都」大阪対「帝都」東京 (講談社選書メチエ)

「民都」大阪対「帝都」東京 (講談社選書メチエ)

  • 作者:原 武史
  • 発売日: 1998/06/10
  • メディア: 単行本

本書は『「京都行幸の日」から「新交通と文化輸送者」へと至る1929年から30年にかけての柳田の鉄道論』(p.14)を「従来主に日本経済誌や日本経営史の研究対象とされてきた鉄道を、昭和大礼を機に近代国家における国民(臣民)統合の装置としてとらえ直したものとして、注目に値する」(p.15)として紹介した上で、

p.16
しかしいうまでもなく、近代日本の鉄道は国鉄がすべてではなかった。

p.16
なかでも大阪を中心として発達する関西私鉄は、昭和大礼が行われた当時には、すでに関西地域で国鉄以上の路線網を有していただけでなく、国鉄に対抗する思想をもとに、それぞれの沿線に独自の文化を築いていったという点で際立っていた。国鉄が前述したような国民統合の装置であったとすれば、当時の関西私鉄には「官」から独立して地域住民の新しいライフスタイルを生み出す文化装置としての側面があったのである。

pp.16-17
本書では、柳田が見落としていたもう一つの近代日本の鉄道である、明治後期から昭和初期にかけての関西私鉄に光を当てる。この関西私鉄というフィルターを通して浮かび上がってくるのは、同時代に立ち現れてくる「帝都」東京とはまったく異なる「民都」大阪の姿である。「民都」というのは、本論に登場する小林一三が、「政治中心」の東京に対して、大阪を「民衆の大都会」と呼んだことにちなむものである。

ということで、鉄道(関西私鉄、特に阪急)を軸にした大阪・東京論が展開されています。
読み応えあり面白かったです。

正午から日付変わるまでのNHKニュース10時間超え録画・1995年1月17日

www.youtube.com

すごいものを見てしまいました。
Youtubeで10時間超えの動画というのもすごいですが、内容がすごかったです。
1995年1月17日、NHK正午のニュースから日付変わるまで阪神淡路大震災の報道を12時間分連続録画した記録です。 ローカルニュースとか直接大震災に関係ないところはカットしてあるようなので、正味10時間45分程度ですがいや長かった。
たまにはさまれるローカルニュースの天気予報など見ると、この録画主は千葉の方のようですが、当時半日分の連続長時間録画を残していただいたことは本当に有り難いです。

動画の初め、AK(東京)からのNHK正午のニュースは石澤典夫アナですが、詳細な内容についてはBK(大阪)で早朝5:46の直後からニュースを読み続けていた宮田修アナにバトンタッチして、そこから東京と大阪ときどき神戸のスタジオ*1を切り替えながら延々と報道が続くという形です。
途中13時過ぎ?からは大阪スタジオは宮田アナではなく他のアナが複数担当していたのですが(刻々と状況が変化しリアルタイムにニュース原稿が横から突っ込まれる災害報道では、恐らくアナウンサーの負担もあり30分とか1時間くらい交代体制が普通)、夜7時のニュースではまたBKスタジオから宮田アナが再登場(!)。
早朝6時前から13時過ぎまでひとり出ずっぱりだった後に再登場するだけでもびっくりなのに、BKスタジオからの全国放送ニュースでは、夜の神戸市上空で市街の火災など被災状況をレポートすべく飛んでいる報道ヘリをぶん回しながらレポートする*2という、とてつもない荒技を繰り出していたのには26年ぶりに見てびっくりしました。そして改めて感銘を受けるのは、そんな荒技をぶん回しているのにも関わらず、一貫して抑制がきいた明瞭なアナウンス(レポート)であったことです。
宮田アナは、その後も夜11時頃まで(多分・動画長過ぎてよく覚えていません)BKスタジオからのアナウンスを担当し続けるという超人的なお仕事をされていたわけですが、それは何でかなと思ってみると、地震発生直後からずっと大震災ニュースを伝え続けた結果、その当日では一番この震災の状況をよく分かっているアナウンサーになってしまっていたのだろうし、また神戸局に勤務されていた経験ありだったようで、神戸~阪神地域に土地勘があるということから、自分がやらねば誰がやるんだ!という気持ちだったのかもしれないな~と思いました。

*1:急ごしらえのしょぼいセットで、これは激震に襲われ局内めちゃくちゃ、ニューススタジオもとても使える状態ではなかったのだと思う。結局神戸局は倒壊はしなかったものの建て直しになったし。

*2:具体的にいうと、報道ヘリに乗り込んでいる記者とやり取りしながらレポートする体なのだが、記者のあいまいな表現(夜暗い上空からなので致し方ないにしろ)に「その火事が起こっているところの具体的な場所は」「神戸駅のあたりというと南側がハーバーランドですね」とかガンガン突っ込みながら情報補足をしていったり、「そこからちょっと東に向かってください」とかヘリやカメラの向かう方向を指示したり。ただこういった物言いは、東西に横長い被災地神戸市全体の状況を十分に伝えたいという目的から出ていた言動だと、視聴していたらよく分かる。

こわいもの知らずの病理学講義

こわいもの知らずの病理学講義

こわいもの知らずの病理学講義

  • 作者:仲野徹
  • 発売日: 2017/09/19
  • メディア: 単行本
表紙のイラストがなんかいい感じだったので、思わず読んでしまいました。
ですます調で語りかける感じで書かれているので、一見するっと読めそうな気がするのですが、なかなかなかなか、さすが「病理学講義」、内容は難しかったです。
難しいけれども、細胞や血管、血液についての話、DNAの基礎知識について一般人向けに知識を整理してまとめてある上に、後半の「がん」について発症メカニズムから病理学的にみた治療に関わる事柄まで、かなり詳しく熱量をもって書かれているのは、すごいと思いました。
個人的にはタスマニアデビルの「伝染」るがんのエピソードが面白かったですね。
へえ~世の中にはこんな珍妙なこともあるもんだ~と思っていたら、ヒトにおいても類似の事例がつい最近報告されてさらにびっくり。
www.ncc.go.jp
www3.nhk.or.jp

ビジネス統計スペシャリスト:エクセル統計(ベーシックおよびスペシャリスト)。

ビジネス統計スペシャリストstat.odyssey-com.co.jp
という民間資格があって、それは

  • エクセル統計ベーシック
  • エクセル統計スペシャリスト

の2つにレベル分けされています。
この年末年始、この2つのレベルの試験を受けて合格しました。
民間資格試験というと、金儲けの養分になりにいくのか~と思われる向きもあるかもしれませんし、確かにそういう側面があるのも否定できませんが、自分が受験してみて、この試験は養分になりにいく以上の意義があると思いましたので、この記事を書いております。
まず、前提として自分のスペックは、上記2つの試験合格についてはもともとオーバースペック気味であったことを述べておきます。
オーバースペック気味といいますのは、大学レベルの心理学統計法や、データ分析の授業を担当していたことです。
そうであっても、上記2つの試験に向けて追加勉強したのは、意味があったなと感じております。

1つ目の「エクセル統計ベーシック」には、試験に対応した公式テキストがあります。

代表値とか散布度とかExcelの機能(関数とか)を用いて求めるとかいうのは別に自分にとって目新しくはありませんでしたが、移動平均とか季節変動値の分析の仕方、さらには最適化(ゴールシーク)などは、自分の育ってきた土壌では全く知ることのなかった角度からの”Excel利用したデータ分析”を知ることができたのは収穫でした。
他に、対応した模擬テスト3回分の教材もオンライン(有料)で提供されているのですが、まじめに試験合格したいと思うなら、この模擬テスト
aoten.jp
も課金しておいた方がいいと思います。
参考のために、有料の模擬テスト3回分も別途購入利用して、それぞれ学習した上で、本試験に臨んだのですが、模擬試験やってよかったと思いました。
公式テキストに掲載の章末問題だけでは、模擬試験には100%対応できない可能性があります。
もともとデータ分析経験がある程度あれば、公式テキスト勉強だけでも本試験はいけると思うのですが*1統計学初学者など、データ分析の実経験がない人では、本試験で投げられる多少の変化球には対応できないだろうなと思いました。
そう思って見ると、「エクセル統計ベーシック」のamazonレビューに

まったく役に立たないです。
これを3周読んで試験に挑んだら470点でした。CBT 方式で自己最低点です。
章末に問題が2問ずつありますが、本番のほうが断然難易度が高く全然歯が立ちませんでした。

と書かれているのは、そうそう、と思える節もあります。
存外難しいところがあるのです。

なお、自分は前述の通りそれなりに知識経験があるにも関わらず、本番試験では1000点950点と、満点は取れませんでした。

続けて、「エクセル統計スペシャリスト」も、公式テキストがあります。

こちらについても、自分の今までの経験ではあまり使うことのなかった回帰分析(単回帰および重回帰)と、ダミー変数の利用について勉強できたのは非常によかったです。
こちらの試験についても、模擬試験
aoten.jp
を別途課金して勉強した上で、本試験に臨んだところ、1000点中895点でした。うーんやはり満点は難しいですね。

どちらも結果的に満点が取れなかったことは残念ですが、統計検定のサイトでも紹介
www.toukei-kentei.jp
されているように、結構いい試験だと思いますし、何よりもExcelがあれば無料で結構高度レベルの分析もできる*2ようになりますですよ!というのは重要なポイントだと思いますので、自分が合格したからというだけでなく、ますます応援したい民間検定試験だと思っています*3

*1:得点率70%で合格ですから。

*2:Excelのデフォルトの機能に加え、無料の「分析ツール」アドインを導入すると結構なことができるのは案外知られていない気がします。

*3:CBT=オンライン試験形式で、自分に都合のよい試験会場を選んで随時受験できるし。