副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか

近年、副業を認める企業が増えてきたと聞きますが、それは人によってはあんまりお給料を上げられないので、どうぞ拘束度は下げますんで、その分副業して生活してくださいな、という風にしかとれないなと思っていたら、図書館の新着コーナーで本書を目にして手に取ってしまいました。
本書に登場する「副業おじさん」たちはなかなか大変なのですが、なぜ「おじさん」なのか、「おばさん」ではないのか、について、本書の「プロローグ」の記述が参考になるなと思いました。

p.9
 この本には副業探しで迷走するおじさんがたくさん出てくるが、実は筆者もおじさんたちと同じような経験をしている。
 筆者は大学卒業後、NHKのローカル放送を中心に、地方局と東京でディレクターとして番組制作の仕事をしてきた。契約社員という非正規雇用であっても、テレビ制作現場は長時間労働、不規則な毎日で、土日も出勤する日々だった。
p.10
 そんな生活から一転、30代前半で結婚退職し、夫の赴任先の地方で新婚生活が始まった時、家庭との両立でどんな仕事をすればいいのかわからず、長い迷路に入り込んでしまった。
p.10
 職歴に「NHK」という看板を掲げたところで、実は何のスキルもないことにも気づかされ悔し涙を流したことも数知れず、それでも生意気に「やりがいのある仕事」を渇望しながら、文字通り迷走し続けてきた。
 この本でご紹介する副業探しに惑うおじさんの姿は、いずれも筆者自身が通って来た道、おじさんの苦悩は結婚や出産でキャリアを断たれた女性が味わってきた道でもある。
 なにも成し遂げていない自分が偉そうに言うのは気が引けるが、おじさんたちも組織を離れると、個人が想像以上に非力な存在であると気づかされるのではないか。
 われわれがこれから戦う相手は、グローバル人材でも、仕事を奪うAIでもない。下り坂を下りていく運命を背負った、自分自身である。おじさんの本当の戦いは、今始まったばかりなのだ。

結婚や出産でキャリア中断しパートの「おばさん」になった女性はたくさんいますが、パートの「おじさん」は(まず)いなかったですよね。
けれどもリーマンショックやコロナ禍など様々な理由で、正社員の「おじさん」が副業としてパートの「おじさん」をするようになるという、そこいらへんの社会の変化を、体当たり取材(著者は実際にバイトとして現場に入って取材していることもある)でうまく切り取って見せてくれていると思いました。

p.210
 副業探しに迷いながらも、どこかで「答え」のようなものを見つけている人がいる。彼らに共通するのは、3~4つ以上のさまざまな副業を経験していることだ。どんな仕事が自分に合うのか、何が自分を夢中にさせるかは、仕事を渡り歩くことで見えてくるのかもしれない。
 こうした「実験」を繰り返せることが副業のいいところでもある。失敗してもいい。困難を味方にして冒険を楽しめる人が、100年時代の勝者になるのではないか。

なかなかしんどい内容も多いですが、ほんのりとポジティブなところもあり、読後感は悪くなかったです。