ロケットガールの誕生:コンピューターになった女性たち

今はNASAの研究所になっているJPL(ジェット推進研究所)で、
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コンピューターとして働いていた女性たちのお話です。
え?コンピューターとして働いていた?といぶかしく思われるかもしれませんが、計算をする機械=コンピューターが開発される前は、弾道計算やロケット打ち上げの実験など膨大な科学的計算を必要とするときに、人海戦術で計算していたそうで、その計算に携わる人を「コンピューター」と呼んでいたそうです。
当時のコンピューターは男女どちらもいたらしいのですが、この本の舞台となっているJPLでは、発足した当初からコンピューターが女性、エンジニアが男性という棲み分けが何となく発生し、さらにコンピューター室の監督が後に(自然と)女性になったこともあり、長らく女性コンピューターと男性エンジニアという組み合わせが続いていたようです。
しかし、IBMなどの機械(デジタル)コンピューターが発達し、高度な科学計算の要求にも応えられる性能をもつようになると、例えば女性電話交換手が電話交換機にとってかわられるようになったように、あちこちの研究所で人間コンピューター(ほとんどが女性)がデジタルコンピューターに置き換わっていったそうですが、この本の舞台となったJPLではそうではなかったというのが非常に興味深かったです。
初期のデジタルコンピューターは、巨大な図体のくせに鈍重で、人間のコンピューターの方がサクサク仕事するし信頼できると思われていたのですが、JPLのコンピューター室の女性たちは、FORTRANという科学計算ができるプログラミング言語に早いうちから目をつけて習得し、今まで自分たちの手でやっていた計算を、しだいに使い物になりつつあったデジタルコンピューター上でプログラミングしておこなうスキルを身につけていったのだそうです。
その結果、デジタルコンピューターに職場を奪われなかったばかりか、プログラミングして高度な計算をおこなうことができるようになり、エンジニアの下請け=コンピューターという立場から、ある目的に適うようなコードを書いてロケット打ち上げや宇宙探査機のプロジェクトに貢献するといった、下請けを脱却しエンジニアと肩を並べる、いや、エンジニアとして論文の連名になるような立場に至ったということが本書では書かれています。

とてもくだけた言い方をすると、数学が好きで得意な女の子、でも女性では数学を活かすようなキャリアなんて思いもよらなかった時代に、数学得意を活かせる仕事=コンピューターに就き、さらにはプログラミングというスキルを得て宇宙探査といった先端技術の分野で活躍するまでに至った女性たちの公私にわたる奮闘*1が描かれている本でした。

*1:仕事と家庭との両立の苦悩など、女性ならではの悩みも描かれています。例えば、あるコンピューターの女性が、妊娠して大きなお腹を抱えて駐車場をえっちらおっちら歩くのが大変なので、自分の通勤用自家用車を優先的に停められる場所を申請しようと管理部門に相談したら、逆に、妊娠している女性は雇えませんと、いきなり解雇されたというエピソードは衝撃的でした。