某大学の「心理学研究法」という授業で使う授業コンテンツ(主にPowerPointスライド)を2019年の4月から作成しています。先月末(2019年12月末)で全15回のうち14回まで作成完了して,あとはこの2020年1月に最後の1回分を作り,一旦コンテンツ自体の制作は終了*1ということで,かなりほっとしています。
以前は,特定の教科書を使用することを前提としたコンテンツを作成するという方針でしたが,今回は特定の教科書によらない内容にしてほしいということで,特定の教科書をベースとできないので,その点大変でした。
ということで,全15回の授業内容を設計&各回の内容を教材に落とし込むために,色々な本を勉強させていただきました。
備忘録も兼ねて以下すこしコメントつけつつ列挙していきます。
放送大学の授業内容は正統派な印象がありますが,ここ10年~20年で何度かリニューアル(担当者変更)されており,その度に少しずつ切り口が違ってくるのがまた興味深いです。
研究で得られるデータが質的か量的かという切り口と,実験,そして実践研究という切り口は独特だと思います。
執筆者がほぼかぶっているこの本のクローンかもしれません。
この『心理学研究法入門』は名著だと思います。実験デザインについて「準実験と単一事例実験」まで含めきっちりと記述した上に,教育・発達や臨床における実践研究についてもきっちり書かれています。
名著だとは思いますが,物言いが難しくてとっつきにくいかも。そのとっつきにくさは,上記
放送大学テキストにもある程度感じられます。
あっ,話がそれてしまいました。
放送大学テキストについて続けます。
「行動から心を探る―観察法」など,日常用語なフレーズで典型的な心理学研究法のそれぞれについて説明されています。
典型的な方法だけでなく「心を説明するモデルを探る―モデル論的アプローチ」とか「動物から人の心を探る―比較心理学的方法」など,執筆陣の個性が結構出ているなという気もします。
先の2008年バージョンと執筆者は同系統のようにみえますので,この2014年バージョンは2008年の延長線上にある気がします。「『きく』ことによって態度や意見を探る―面接法―」など,日常用語なフレーズが使われているのは私は好きですね。
- 「本書には,過激な発言が多く見られます」と著者自ら冒頭で述べている本
実験系出身の人が,質問紙調査で卒論を書くゼミ生をもつようになったため,自分と自分の学生のために執筆したらこういう内容になるのかしらと思う本です。実験計画について簡潔で当を得た記述がされていて,質問紙調査では信頼性と妥当性についてきっちり言及した上に,質問紙を作る際の細々とした留意点を説明してさらに調査実施後の調査票の取扱いとデータ入力まで経験した人でないと書けない気をつけろよポイントが押さえられているのは頭が下がります。
このように,非常に堅実で実践的な内容なのですが,ときどき上記見出しのように”過激な発言”があるのがまたご愛敬で。
事例研究と称して,心理臨床の事例を報告しているものがある。そこには,クライエントとセラピストのやり取りが,日記や作文のように記述されているものもある。そして,クライエントの反応やカウンセリングの効果は,セラピストの主観によって,言葉で記述されている。このような事例報告は科学的心理学ではない。(中略)心理学あるいは臨床心理学などと称して,このような事例研究を教えている大学の講師もいるが,残念ながら,その講師からは科学的心理学を学ぶことはできない。
おおぅ。
心理学を研究すること,といった総論的なことと,統計処理の初歩,研究倫理,研究成果の公表(心理学論文の書き方)など,雑多な内容が同居している一冊です。この本一冊で「心理学研究法」について述べるというのではない,という作りのようです。
研究倫理については,研究不正について結構傾斜して書かれているような印象を受けました。
ちゃんとした心理学系学科・学部ならやるよね的基礎実験のマニュアルぽいですね。
大昔ならこれ系の本なら,
ミュラー・リヤー錯視とか鏡映描写とかいかにもな実験のみについて扱っていたのが,「パーソナル・スペース」なども扱っているのは時代の変化を感じますね。
「調査法」だけで1冊独立しているだけあって,基本的な事柄だけでなく派生的(応用的)なことまで記述されているのは面白いですね。例えば,「オンライン調査」(これは著者先生の特色もあるでしょうが),海外産の心理尺度を使う際に避けられない「翻訳」の話とか。
観察法っていうと,私なんかはすぐ子ども=発達研究を想起してしまうのですが,行動分析系の観察研究が結構例示されているのでなかなか独自性があると思います。
なるほど! 心理学面接法 (心理学ベーシック)
- 作者:米山 直樹,佐藤 寛,下津 咲絵,金井 嘉宏,細越 寛樹,石川 信一,高橋 史,廣瀬 眞理子,大月友,佐々木 恵,田中 恒彦,稲垣 貴彦,岡島 義,首藤 祐介,本岡 寛子,髙橋 稔,伊藤 大輔,川端 康雄
- 出版社/メーカー: 北大路書房
- 発売日: 2019/01/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
構造化・半構造化・非構造化とかいった面接法の基本的な話を押さえた上で,後半本書の半分は臨床面接法(臨床評価)に紙幅がさかれているのはなかなか強い感じです。
村井純一郎先生って,
遠見書房の
公認心理師テキストシリーズの「心理学研究法」の執筆されているんですよね。
ページ数はそんなに多くないのに基礎系・応用系どちらにも目配りしてしかも的を得た(私の思う限りでは)内容であることに驚愕します。
これも名著だと思いますです。
これを目にして,自分にはあまり縁のない生理心理学的測定法を授業内容に入れてみたいなと思ったりしたし。
なにかとdisられる?ことの多い事例研究について,今回扱ってみました。
事例研究について述べる場合,まずほとんど引用されている河合隼雄先生の論文が収録されている本。
あんまり河合先生の御本は読んだことないのですが,本書に収録されている内容は,当初目的であった事例研究関連以外も,すごいアグレッシブでいい感じですね。
「事例研究」ってともすると,単に日記とか感想文にしかならないんじゃないの?と思いますが(←偏見),こういう本を真面目に読んで実践するといいんじゃないでしょうか。
ひとつ前の本の共著者の先生が単独で書かれている本です。これは面白かった。日本の心理臨床で事例研究が盛んになった経緯とか,リアルタイムで経験してきた人じゃないと書けない,しかもご本人は第一線から隠居しているから書ける的な感じで個人的には面白く拝読。
以前は,発達研究法って,横断法と縦断法じゃないのって思ってましたが,ふとしたときに放送大学「乳幼児心理学」の授業を何度か視聴して,言葉が通じない乳幼児に特化した研究法があるということを知って,横断法と縦断法に加えてそういった方法を提示しないといけないよなと思うようになりました。
そのきっかけとなった放送大学テキスト
これに関連して,アモーダル知覚って何だ?と疑問に思ったので,同じ著者先生の本も参照しました。
こちらについては,脳波等の非侵襲的な検査(調査)法も大変参考になりました。
発達研究,特に縦断法については,次の本のカンガループロジェクトも参考になりました。
発達=子ども研究という点で,観察
法研究の例としては,こちらの本の内容も参考になりました。
すごくいい本です。個人的には大好きな本です。この本に書かれているようにヒトがそのまま成長したら,世の中は決して悪くならないだろうにとか思ってしまいます。乳幼児に関わる人にはぜひ読んでいただきたい本です。
他には,
とかも参照しました。
前バージョンの心理学研究法で教科書にしていた本。
前バージョン&今回の教材作成でも参考にしていた本。
心理検査をツールに使うという文脈で参考になった本。
第14巻 心理的アセスメント (公認心理師の基礎と実践)
- 作者:津川 律子,遠藤 裕乃,酒井 佳永,遠矢 浩一,小山 充道,武山 雅志,大六 一志,明翫 光宜,高橋 依子,森田 美弥子,田形 修一,福田 由利,渡邉 直,佐藤 由佳利,吉村 雅世,松浦 真澄,大山泰宏
- 出版社/メーカー: 遠見書房
- 発売日: 2019/04/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)