教養としての「税法」入門/教養としての「所得税法」入門

教養としての「税法」入門

教養としての「税法」入門

  • 作者:木山 泰嗣
  • 発売日: 2017/07/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
教養としての「所得税法」入門

教養としての「所得税法」入門

  • 作者:木山 泰嗣
  • 発売日: 2018/08/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

確定申告の時期・・・(今年はコロナ特例で4月15日まで延長)ということで、読んでみました。
まず、「税法」入門が先に出て、次に「所得税法」入門が出たという順序です。
「税法」入門では、税法の歴史や、基本原則、税法の制度など「税法」について広く浅く、ですます調の平易な口調で、判例や法律の条文もひきながら解説しています。
2冊目の「所得税法」入門では、タイトル通り、(先の「税法」入門でも解説していたけれど)所得税法について、1冊目と同様に平易な口調ですが、しっかり解説しています。
平易で丁寧な文章ですが、法律用語(きちんと解説入れています)があちこち出てきますので、素人にはそんなにサラサラとは読めません。しかし、それら用語の意味(定義)を念頭におきながら話の筋を最後まで追っていくと、著者先生の言いたいことはちゃんと分かるように構成されていますし*1、何よりも挙げてある判例が興味がもてるように書かれているので(まーお金の話なので真剣に読んじゃうんだけどね)、2冊とも法律素人にとっての良書だと思います。

本書を書かれた背景には、2冊目の最後あたりに書かれていたような思いがあるのかな、と拝見しました(下記太字はlionusによる)。

p.345
 本書でお話してきたように、所得税は担税力に応じた公平な課税を実現できる優れた税金です。そして、理論的には、勤労性所得よりも資産税性所得のほうが担税力が高いにもかかわらず、政策税制として投資家優遇等の措置が採られ、資産性所得のほうに税優遇がなされているのが現実です。また、資産性所得を得ている人には、1億円を超えるような年収の高い富裕層がいて、勤労性所得を得ているサラリーマンの高額所得者よりはるかに高い収入を得ているにもかかわらず、近年の増税は給与所得者が狙い撃ちにされています。

太字部分、うんうんそうだそうなんだよ!

p.346
 どのような制度設計がよいのか、読者のみなさんも本書で得た「所得税法」の基本をもとに、考えてみていただければと思います。

*1:重要なことは繰り返し出てくるなど、読者を置いてけぼりにしない工夫があるとか。

民事裁判入門

lionus-old.hatenablog.jp
lionus-old.hatenablog.jp

上記2冊をお書きになった瀬木先生(裁判官→大学教授へ転身)が、裁判官であった立場から、日本の民事裁判について色々書かれている本です。
裁判官はどのように考えてお仕事をされているのか、「心証」形成過程などについて書かれているのは興味深く拝見しました。
賢い裁判所ユーザが増えて欲しいなあ・・・という動機を感じました*1

*1:「プロローグ あなたの法的リテラシーを高めるために」にまずそういうことが書かれています。

ドキュメント御嶽山大噴火

少し前に、山岳遭難に関する本を読んで、その他にも同種の本を少し読んでみたいと思い、
lionus.hatenablog.jp
山と渓谷社」でOPAC検索したら出てきたので、読んでみました。
2014年9月27日の噴火災害の話を、同年12月15日に本発行しているのはすごいスピードです。
内容は、噴火当日から10日間の動きと、噴火災害に遭遇し生還した7名の証言、信州大の研究者による当該噴火についての知見、救助活動参加者の証言という構成です。
特に生還した7名の方は、山岳ガイドなど山に関する仕事をされているか、そうでなくてもそれなりの登山経験のある方たちで、それなりのスキルがありながら、生還できたのは運だったというようなことをおっしゃる方もあり、噴火災害の容赦なさを感じましたが、やはり一定以上のスキルがあったからこそ、助かったのではないかと感じました。そして噴火を見てとっさに取った行動や、下山行動、登山装備についてのコメントなど、今後山に登るときに参考になりそうと感じました*1
最後に、災害心理学の広瀬弘忠先生のサバイバーズ・ギルトに関するインタビュー記事が収録されており、被害者(生還者)および遺族の心理面のケアについての話が入ってくるのは今時だなとも思いました。

*1:自分は山登りはしないけど・・・

ゼロからわかる日本経営史

ゼロからわかる日本経営史 (日経文庫)

ゼロからわかる日本経営史 (日経文庫)

本書のカバー裏にあるPoint紹介にある
「幕末開港、明治維新から平成までの日本企業の歩みを解説する入門書です。日本経済の軌跡を企業と経営者が織りなすストーリーとして描きます。」
「現在企業が直面している課題に向き合っている人のヒントにもなります。日本の未来に向かってどのような経営が必要かも解説します。」
といった通りの内容でした。
本文中の引用文献は明確に示されていますし、もちろん巻末にも「参照文献」一覧があるので、ここからさらに広げる・深めることもできます。
日経文庫は、基礎知識のない素人でも分かりやすく、ある程度の知識をサクッと眺められるので便利なシリーズだと思っています。

老いた家 衰えぬ街

先日読んだ
lionus.hatenablog.jp
この本と同じ著者による続編です。

こちらの方は、親が亡くなって空き家となった実家をどうするべきか?!とか、自分が死んだ後相続人に迷惑をかけないようにするためにはどうしたらいいか(住まいの終活を!)といった視点から実用的に書かれているのですが、本書の根底にあるのは、”あなたが損しないように・困らないように・関係者に迷惑かけないように”、のための対策を示すというよりも、そういった問題に関わる情報を幅広く提供することで、日本のあちこちで進行しつつある、地域(ひいては国土)の荒廃につながる空き家問題をできるだけ少なくしたい、といった思いだと拝見しました。

p.200
 今あるまちを、将来世代が使いたいときに使えるような身綺麗な状態でバトンタッチできるようにするためには、「住まいの終活」に取り組むことに加え、国土全体の保全や管理に必要となる負担を「みんなで分かち合う覚悟」が必要不可欠なのです。

危機と人類(上・下)

危機と人類(上)

危機と人類(上)

危機と人類(下)

危機と人類(下)

上下2冊でボリュームがありますが、一気に読んでしまいました。
ココナッツグローブ大火の被害者や遺族へのケアの中から経験的に編み出された「危機理論」(リンデマン)や「危機療法」の研究の知見をもとに、個人的危機の帰結にかかわる12の要因を著者は挙げ、その12の要因を個人ではなく国家にもあてはめて、危機を経験した「国家」の比較研究を試みた、という本です。
取り上げられている国家はフィンランド、(幕末~明治維新期の)日本、チリ、インドネシア、ドイツ(特に第二次世界大戦後)、オーストラリアですが、これらの国を選んだ理由は、著者自身滞在経験があったりして比較的よく知っている国だからということで、客観的な基準はないようです。だからといって、よろしくないとか、つまらないとかいうことは全く思いませんでした。数多くある「国家」について、経験した「危機」について客観的な基準で選ぼうとしたらそれだけで膨大な手間ですので、その手間を省いて執筆にかけるほうがよほど有意義だと思います。
さらに、現在進行中の「危機」とその対処についての考察を、日本とアメリカ、そして世界全体について書かれています。

日本についてはともかく、フィンランドやチリなど今までよく知らなかった国の(危機とその対処について焦点を当てた)歴史を読めたのは、非常にわくわくしましたし、まあまあ知っているつもりの国(例えばドイツ、アメリカ)についても新たな視点が得られたのはよかったです。

当初、「危機」とタイトルにあり、目次をざっと見ると「国家」についてのケーススタディと見えたので、本書を読むことで逆に個人的な危機とその対処法について何か新たな視点が得られないかと思って読んだのですが、「モザイク」と「選択的変化」というキーワードについて読めたのは、それに適うものでした。

p.13
だが、どんなに順調にみえる人であっても、彼らの人格は、大火後の新しいアイデンティティとその前からあった古いアイデンティティとが混ざり合ったモザイク状になっており、何十年も経った今も変わらない。本書では、この「モザイク」という比喩表現を用いて、異質な要素がぎこちなく混在する個人や国家を表現していく。

pp.15-16
外圧でも内圧でも、それにうまく対応するためには、選択的変化が必要である。それは国家も個人も同じだ。
 ここでのキーワードは「選択的」である。個人も国家も、かつてのアイデンティティを完全に捨て去り、まったく違うものへ変化するのは不可能であり、望ましいわけでもない。危機に直面した個人と国家にとって難しいのは、機能良好で変えなくてよい部分と、機能不全で変えなければならない部分との分別だ。そのためには、自身の能力と価値観を公正に評価する必要がある。どれが現時点で機能し、変化後の新環境でも機能するか――つまり現状維持でよい部分を見極める。そして、新たな状況に対応すべく、勇気を持って変えるべき部分も見極める。これを実行するには、残す部分と能力に見合った新しい解決策を編み出す必要がある。同時に、アイデンティティの基礎となる要素を選び出して、重要性を強調し、絶対に変えないという意思を表明する。
 これらは危機に対する個人と国家の類似点の一部である。

もしも刑務所に入ったら - 「日本一刑務所に入った男」による禁断解説

サブタイトルに「日本一刑務所に入った男」による禁断解説、とありますが、これは少々煽り気味で、刑務所に視察に(恐らく)日本一入っている大学の先生が書かれた本です。
けれども、刑務所ってどんなところ?入ったらどんな生活?など、総合的に垣間見られて面白かったです。
実のところ、本書を書かれた裏目的には、刑務所をめぐる制度や政策についてもっと一般の人も知ってもらいたい・考えてもらいたいというところがあるように思いました。
「第5章 刑務所が抱えている問題」には、刑務所に何度も出たり入ったりする累犯者の存在と、さらには累犯者の高齢化問題、無期刑囚はすべからく死ぬまで刑務所に入れておくべきなのかといった問題提起がなされています。
「最終章 出所後の生活」では、第5章でも述べた受刑者の高齢化問題とともに、

p.197
 罪を犯して出所しても、その犯罪者が若くて健康で体力があれば就職口がある。しかし、高齢者や障害者の受刑者は就職口がなかなか見つからないということが、犯罪を重ねることにつながっている。
 彼らは刑事政策と地域社会の狭間の問題に陥っていると言える。民間企業の受け入れが絶望的な老人受刑者は、もはや面倒を見る場所が刑務所しかないのである。

薬物によって刑務所に入った人をどうするか問題も書かれています。

p.198
 老人や障害を持つ受刑者の更生と並んで困難を極めているのが、薬物で刑務所に入った人たちである。

p.198
高齢受刑者が就職するのは難しいが、薬物依存症者においては年齢が若い人が多く、薬物を断ち切ることができれば、就職口も見つかり、再起できる可能性は高いと言える。

p.199
 刑務所の役割は、あくまで罪を償う場所であって、犯罪者の復帰支援のために存在しているわけではない。再犯防止の命題は、むしろ受刑者たちを受け入れる地域社会に委ねられている。