新型コロナの科学―パンデミック、そして共生の未来へ
いやいやすごいです。
きっちり膨大な資料を調べ上げた上で、その情報量にも溺れることなく、一般的な読者(新書読者)に対しての2020年10月23日時点(11月23日再校時の追記情報もあり)での新型コロナまとめを示してくれています。
amazonレビューでも書いている人がいますが、本書で一番衝撃的だったのは、厚労省がPCR検査のネガティブ・キャンペーンをはっていたという指摘です。
p.175
日本のコロナ対策の最大の問題は、PCR検査を制限したことである。民間臨調の表現を借りれば、PCR検査は「日本モデル」の「アキレス腱」であった。
p.176
驚いたことに、PCR検査が少ないのは、専門家会議と厚労省の確固たる方針であったのだ。
症状のはっきりした患者と濃厚接触者にPCR検査を行うという方針である。症状がない人は健康であり、病気でもない人に検査をするのは、健康保険の方針に反するからである。
これに関し、「行政検査」というキーワードが出てきます。
p.177
行政検査は、たとえば、建築、食品などの安全性などのために、行政が行う検査である。方法、手続きなどが決められている行政検査は、信頼性が高く、われわれの生活の安全性を保証してくれる。確かに、新型コロナに対しても行政検査で完全に対応できれば問題はなかった。しかし、無理と分かった後も、厚労省は行政検査に固執し、そのためにPCR検査は著しく制限され、逆にわれわれの安全性が脅かされることになった。
p.178
行政検査は、行政上必要な検査であり、公的資金で行われる。このため、むやみに検査を増やすわけにはいかないと考えた厚労省結核感染症課は、「受診の目安」を発表した(2月17日)。
後に撤回されることになった、37.5度以上4日間というやつですね。
pp.180-181
最大の問題は、厚労省が政治的に動いて、国民の目の届かないところで、自分たちの主張を通そうとする態度である。公務員としての意識が欠如しているとしか思えない。さらに、厚労省と外郭団体の中には、「行政検査による検査権と既得権益の維持を優先」する人たちがいたと、民間臨調の報告書に書かれている。これも驚くべき事実である。厚労省が「行政検査」に固執していたのは、「検査権と既得権益」のためだったのだ。コロナ禍という国家的大事件の下で、司令塔である厚労省がここまでの弊害を残していたとは信じられない。
「検査権と既得権益」を守るため、と言われれば、そうかそうかそうなのか!ひどい!と思えなくもないのですが、これだけで、あんな固執につながるものなのかと、自分としてはまだ十分な納得はできません。これが書かれているという民間臨調の報告書をあたってみればもっとあれこれ書かれていて納得できるのかな・・・?
これについては、以下のような構造もあるのかな?と本書読みながら思いはしました。
pp.181-182
一般的に、本質を理解している人の方が、頭が柔らかい。法律や行政を専門にしている官僚に比べると、医系技官は他分野からの参入だけに、より官僚的になりやすいのではなかろうかと危惧する。新型コロナ対策ではあらゆるところで、行政のかたくなな態度が目につき、それが。いわゆる「目詰まり」となっているのではなかろうか。御厨貴が指摘しているように、「官僚がうまく回っていない中で一番の問題は、やはり、厚生労働省」の問題である。特に医系技官は自分たちの専門に自負心を持っているが故に、他の人たちの意見を聞かず、自分たちで処理をしていく。御厨は厚労省が医系技官の存在を見直さないと今後大きな問題になり得ると指摘する。
上記は、医学部出て医療行政の世界に入っている彼らに一定の敬意を示した上で書かれている内容です。
最後に、本書の章立てを示しておきます。