災害防衛論

災害防衛論 (集英社新書)

災害防衛論 (集英社新書)

こちらも再読でした。
最初に読んだときの昔の記事:
lionus-old.hatenablog.jp
本書のポイントは,以前読んだときにも書き留めていた,

  • 災害抵抗力+回復力=災害弾力性(リジリエンスともいう)
  • 能動的安全と受動的安全

p.59
 自動車の安全走行を実現するためには,事故の未然防止と,事故が発生した場合に,運転者や同乗者,歩行者などへのダメージを最小限におさえる工夫やしくみが必要である。前者の事故の防止に関するしくみや措置を能動的安全(active safety)または予防安全性,後者の事故による被害を軽減するしくみや措置を受動的安全(passive safety)または固有安全性と言う。

著者先生は,能動的安全よりも受動的安全を優先すべきと言います。

p.60
さまざまな事前安全対策によって事故を減らすことはできても,事故そのものをなくすことはできない。いかにして被害軽減をはかるかが,最重要のテーマであるべきなのだ。能動的安全よりも受動的安全の追及を優位におくべきである。そして受動的安全を究極までつきつめていくと,被害をゼロにおさえることができる。これは能動的安全の完全な達成状態である。このことは,発電用原子炉の進化の事例からも明らかである。

以前読んだ時にはあまり頭にひっかかってこなかったけれども,今回の新型コロナウィルス問題に関連して,危機における強力なリーダーシップ(強力な権限をふるう)の必要性について考えさせる記述がありました。
まず,危機時のリーダーシップについて。

p.180
 私がここで問題にしたいのは,日本の精神風土である。強いリーダーシップを毛嫌いする風潮が,わが日本の社会には強すぎるのである。

ということなのですが,今回の新型コロナウィルス問題はもしかすると”つよいりーだーしっぷ”が変な形で現われつつあるのでは?と感じてしまいました。

p.180
今後わが国が,予想される新しい危機的事態――テロやパンデミックなど――に直面したときに,われわれがいやおうなく緊急対応をせまられることは明白だが,このようなとき,危機を回避するために強いリーダーシップがもとめられるはずである。また,災害時には明確に一元的な意思決定のシステムが必要となる。そこでは,合議によって行動がきめられるのではなく,一人または少数の人間が迅速に全てを決断する必要がある。

これはリーダーが優秀であることを前提としている記述だと思います。

次に,非常時に”強権”を発揮して事態をコントロールすることについて。
著者先生はアメリカのTVドラマ『24』に出てくるという「CTU(テロ対策ユニット)という架空の連邦機関」を例にして,

p.183
 ここでの私の関心は,あらゆる過剰なコストを支払いながら,無差別テロという巨大リスクに対応しようとする架空の政府機関の利害得失,是非善悪の問題なのである。

そんな政府機関は必要かも知らんけどどうだろう?と微妙な書き方をされています。

最後に,これは絶対今こそ必要。

pp.185-186
 重要なのは,テロ対策であれ,感染症対策であれ,何が必要な措置であり,何が不適切な措置であるかを,われわれがきちんと判断しなければならないということだ。権力の独走や権限の自己増殖をきちんとチェックする手段を,われわれは持っていなければならないということである。