新版 災害と日本人―巨大地震の社会心理


本書は「第1部 日本人の災害観」「第2部 地震予知の社会心理」,そして1995年1月の阪神淡路大震災後に出された新版で追加された「補章 阪神大震災を実地調査して」から構成されています。
まず第1部では,関東大震災の事例を豊富にとりあげながら,日本人の災害観は①天譴論,②運命論,③精神論の3つを抽出しています。
なかなか面白いです。
その他,この第1部で出てきた「知識のギャップ理論」は興味深かったです。

pp.130-131
たとえば,キャンペーン研究の分野には「知識のギャップ理論」と呼ばれるものがあるが,この理論はそのことをはっきりと指摘している。
 この理論によれば,啓蒙キャンペーンを実施すればするほど,住民の間の知識のギャップは広がっていくという。つまり,キャンペーンに接触する人々は,もともとその事柄に関心があり知識がある人々であって,キャンペーンをすればするほど,そうした人々の知識は増加していく。ところが,キャンペーンが本来目標にしている,知識も関心もない人々は,こうしたキャンペーンを無視することがきわめて多いのである。その結果,キャンペーンを重ねるにつれて,知識層と無知識層との間に以前からあった知識のギャップは,ますます大きくなっていくというわけである。もともと啓蒙キャンペーンには,こうした難点が存在しているのである。
 ところが,防災キャンペーンは,こういう難点に加えて,防災の努力を阻害するような災害観の存在があるため,二重の意味で難しいといわねばならない。しかも,災害観は日本人の精神の基底にある自然観や宗教観と密接に結びついているわけだから,これを完全に払拭することは相当に困難と考えられる。

あー。分かる分かる。啓蒙キャンペーンじゃなくても,普段の授業でもあるあるな傾向。

第2部は社会心理学者として,理論と実践(ご本人たちの研究グループで実施したアンケート調査データの分析)の両面から流言や地震予知の社会的影響について論ぜられています。

最後の補章では,「ちょうど当時,日米都市防災会議が大阪で開かれており防災関係者が集まっていたので,その研究者数人と九時半ごろタクシーを頼んで神戸を目指して出発し(p.267)」,現地の状況をつぶさに見た上での,防災研究者としての談話が書かれています。
高速道路が横倒し!など,日本の”安全神話”が崩壊した,などと当時言われていましたが,以下は知らなかったです。

pp.270-271
 さらに付け加えると,近代施設の被害では,情報システムもひどかった。兵庫県は八十億円を使って自治体衛星通信による防災通信システムを入れており,これは日本でも最先端をいくシステムであった。ところが,地震の一揺れでこれが六時間にわたって故障してしまい,国や市町村との通信がほとんどできなくなった。高度の防災情報システムが地震によって動かなくなったわけで,安全神話崩壊の中に,新幹線,高速道路,地下鉄に加え,高度情報システムも入れておく必要があると思う。